入浴介助加算見直しの「本筋」

f:id:testcaremane:20210728133437j:plain

 

居宅介護支援外の加算でありながら、ケアマネの関心を集めているのが、通所系サービスの入浴介助加算の新区分(II)です。その疑義解釈(Q&Aのvol.8)が出されました。これを読むと、そもそもの新区分の目的がどこにあるのか──が浮かんできます。

まずは、入浴介助加算IIの目的を再確認

まずは、改めて「入浴介助加算II」の目的を再確認しましょう。今改定の留意事項では、以下のように示されています。 「利用者が居宅において、自身で、または家族もしくは居宅で入浴介助を行なうことが想定される訪問介護員等の介助によって入浴できるようになること」というものです。

そのために、医師、リハビリ職、介護福祉士、ケアマネ(さらには福祉用具専門相談員や機能訓練指導員など)が利用者の居宅を訪問し、利用者宅の浴室での「利用者の動作」および「浴室の環境」を評価します。ここで問題となるのは「評価の結果」です。

仮に「今のままでは(家での入浴は)難しい」という評価になったとします。その場合、通所事業所から利用者や担当ケアマネに対して、「福祉用具の貸与や浴槽の改修」などにかかる助言が行われることになります。

今回のQ&Aで明らかになった考え方とは?

ここで懸念されてくるのは、「利用者の状態を見る限り、福祉用具の活用や浴槽の改修だけでは家での入浴は困難」というケースです。もちろん、「家での入浴は想定していない(新たに訪問介護を活用したり、浴室改修する費用などを負担したくない場合も含む)」という意向を、利用者側が示すこともあるでしょう。

こうしたケースでどうするのかを示したのが、今回のQ&Aです。結論から言えば、⑴通所の浴室での入浴の自立を目指して個別の入浴計画を作成する、⑵その個別計画に沿って(通所の浴室で)入浴介助を行なう、⑶通所事業所以外の場面での入浴が想定できるようになっているか確認するというものです。

⑶はやや「取ってつけた」感がありますが、これによって留意事項の「目的」との整合性を何とか取ったと言えそうです。 それより重要なのは、「個別機能訓練の考え方が入浴介助に取り入れられた」点です。利用者の意向や事情を無視してまで「家での入浴」を目指すものではなく、あくまで「本人のできる・している行為」を維持しつつ入浴の自立を目指すことが本筋となるわけです。

ポイントは個別機能訓練加算見直しとの関係

このQ&Aの趣旨を読み解くと、以下のようなポイントが浮かびます。それは、今回の入浴介助加算IIは、これまでの入浴介助加算(1日50単位)に「改定前の個別機能訓練加算II」の「生活機能の維持・向上」の考え方を反映させたものという見方です(それがプラス5単位の評価と位置付けられます)。

ご存じの通り、通所介護の個別機能訓練加算も見直されました。改定前のIは「身体機能の向上」を、IIは「生活機能の維持・向上」をそれぞれ目指していたわけですが、実際はIとIIで訓練内容にほとんど差がないことが課題となりました。そこで、訓練内容ではなく、機能訓練指導員の専従配置時間で区分分けを行ないました(代わりに、I・IIを通じて訓練の個別性等が強化されています)。

しかし、厚労省としても「生活機能の維持・向上(利用者の実生活上の行為を回復させること)」という目標トーンを下げたわけではありません。たとえば、「一つひとつのケアの中身に反映させていく」という方向に舵を切った可能性があります。その入口となったのが、今回の入浴介助加算の見直しと考えられます。 (通所リハビリ側では、生活行為向上リハビリ実施加算をめぐる課題で同様の考え方が伺えますが、ここでは割愛します)

現場にとっては、依然として大きな問題も

以上の点から、今回の入浴介助加算をめぐるQ&Aにより、「厚労省として本当は何がしたいのか」がようやく明らかになったと言えます。「何としても家での入浴を実現する」が本筋ではないという点で、ケアマネとしても少しは頭の整理がしやすくなったでしょう。

とはいえ、依然として問題は少なくありません。たとえば、常時機械浴といった利用者がいたとして(通所介護でもそうしたケースは見られます)、今回のQ&Aを受けて「IIを算定してもいいのか」が問われてきます。

確かに漫然と機械浴を続けているが、実は機能向上を図る余地がある──というケースもあります。しかし、そのあたりの判断は難しいでしょう。Q&Aでは「利用者の状態に応じた身体介助の例」が示されていますが、事業者と現場職員のアセスメントにかかる意思疎通が十分に図れていないと、職員の腰痛リスクが高まったり、思わぬ事故が発生することにもなりかねません。法律上の介護職保護が不十分なうえに、今改定の状態像による線引きが現場任せゆえに起こりうることです。

先に述べた個別機能訓練加算の見直しは、そもそも厚労省のビジョンと現場の実情の乖離から生じているものです。今回の入浴介助加算の改定で新たな溝を生じさせないためにも、現場リスクという観点で算定基準をさらに明確化する通知等が必要かもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。