利用者負担導入で財務省の次の一手

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財務省の財政制度分科会が、新年度の議論をスタートさせました。次の介護保険制度の見直しに向けた厚労省側の議論にも、大きく影響するのは間違いありません。財務省側の提言の中で、ケアマネとして注目したいのは、やはり利用者負担の導入等についてです。

これまでの財務省側の主張を整理すると…

ケアマネジメントへの利用者負担導入は、近年の制度見直しのたびに浮上しているテーマです。しかし、介護保険部会等での慎重論が強く、これまで実現はされていません。

では、今回の財務省提案を受け、次の改正(2023年見込み)の行方はどうなっていくのでしょうか。この行方を予測するうえで、まずは財務省側の主張内容の変化に着目します。

2020年の法改正に向けては、2019年の4月と10月の財政制度分科会で、やはり「ケアマネジメントの利用者負担の導入」が提案されていました。その際の考え方は、「利用者負担が設定されていない」→「利用者側からケアマネの業務の質へのチェックが働きにくい構造がある」というものです。

そのうえで「自己負担を通じて利用者自身がケアプランに関心を持つしくみが必要」→「サービスの質の向上(利用者本位のケアマネジメントの提供および「公平・中立」の実現)につながる」という展開が認められます。

「公正中立性」の観点からの踏み込み

しかし、ここでの「サービスの質の向上」とは何か、「利用者本位なケアマネジメント」とは何かについては、具体的なイメージは記されていませんでした。この部分があいまいであるゆえ、利用者負担導入によって「サービスの利用控えが生じる」、「プランが利用者の言いなりになりやすい」といった懸念の方が説得力でまさっていたわけです。

では、今回(4月15日)の財務省側の主張展開はどうなっているのでしょうか。注目したいのは、「公正中立性」の観点からのやや踏み込んだ課題が示されたことです。

根拠とされたのは、「ケアマネジメントの公正中立性を確保するための取組や質に関する指標のあり方に関する調査研究報告書」(医療経済研究機構・2019年度厚労省の老人保健健康増進等事業による)からのデータです。

より「具体的な課題」を打ち出してきたこと

それによれば、ケアマネに聞いた「過去1年間の経験」として、「法人・上司からの圧力により自法人のサービス利用を求められた」について「よくある+ときどきある」の合計が約4割に達しています。財務省側はこのデータを取り上げて、ケアマネジメントに「公正中立性の問題が存在」と断じました。

さらに、やはり上記の報告書から、以下のデータも取り上げています。それは、「本来であればフォーマルサービスは不要と考えていたが、(それでは報酬算定できないので)報酬算定のために、必要のない福祉用具貸与等によりプランを作成した」というケースです。これについて「よくある+ときどきある」の合計が約15%に達し、これも財務省側が問題点として取り上げています。

以上のデータをもとに、改めて財務省側は以下の主張を示しました。「利用者負担を導入し、利用者が自己負担を通じてケアプランに関心をもつしくみとするとすることにより、ケアマネジャーのサービスのチェックと質の向上にも資する」というものです。

主張の趣旨自体は大きく変わってはいませんが、異なるのは、「より具体的な課題がある」ことを明確に指摘した点です。これにより、「その課題を解決しなければならない」という名分を強化したわけです。慎重論の側からすれば、上記課題への解決策の代案を示す必要が強まったことになり、今後の議論展開を大きく左右するかもしれません。

「ケアマネ側の総意」にされてしまうかも⁉

ちなみに、提示されたデータを見た場合、ケアマネ側としては、むしろ以下のような主張を出したいところでしょう。「独立型のケアマネの報酬を引き上げる」、あるいは「フォーマルサービスが組み込まれていないプランでも報酬算定を可能にする」といった具合です。

しかし、実際には、「利用者負担導入」の根拠として位置づけられたわけです。注意したいのは、「こうした現場実態をケアマネ側が訴えている」と受け取られることで、「利用者負担の導入」が「ケアマネ側の総意」のごとく誘導される可能性です。日本介護支援専門員協会などとしても、早期にケアマネ側としての立場を明確にする必要があるでしょう。

たとえば、財務省側がこうしたデータにもとづく主張を進めるなら、独立型ケアマネの報酬増やケアマネの業務範囲をきちんと整理することも論点としてクローズアップすべき──といった提案もできるでしょう。「利用者負担の導入」の前に、ケアマネが公正中立を果たしやすい環境を整えることが「筋」という議論の展開が期待されるわけです。

このように、夏からの介護保険部会の議論では、いろいろな職能による思惑が天秤にかけられることになりそうです。現場のケアマネとしても、地域の連絡会などで「今必要な改革は何か」を整理しておきたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。