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配信日:2018/05/14  カテゴリ[ニュース解説]  閲覧数[1716]

老健で進む「介護助手」導入事業

経産省が「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会」の報告書の中で、介護人材の確保力強化に向けて「介護サポーター」の導入促進を提案しています。一方、この報告書では、全国老人保健施設協会会長による「元気高齢者の介護助手事業について」と題したプレゼン資料が別添されています。

総合確保基金によって15年度からスタート

老健協会のプレゼンにある「介護助手」のモデル事業は、2014年の法改正で誕生した地域医療介護総合確保基金をもとに15年度から三重県(対象は同県内の9か所の老健)でスタートしたものです。翌16年度には県内全域の18施設まで拡大し、18年度からは全国25以上の都道府県で導入が進んでいます。

老健協会によれば、このモデル事業のポイントは2つあります。1つは、「介護職の業務を切り分け細分化し、その細分化した業務のうち、比較的簡単な単純作業の部分を担う『介護助手』という考え方を導入した」という点。もう1つは、「その『介護助手』の担い手として、元気高齢者を起用した」という点です。

まさに経産省が提言している「介護サポーター」のビジョンに沿うものであり、その意味で、経産省提言のベースとなるモデルケースと位置づけることができるでしょう。

ちなみに、このモデル事業が発案された背景の一つとして、プレゼンでは「かつて『看護助手』の導入により、看護師が専門性を高め、社会的地位が向上した」としています。ほとんどの老健の運営母体となる医療法人内で、「看護師の地位向上」という実績があったことが、老健における「介護助手」の導入を強く後押ししたことになります。

現場へのアンケートでは「効果は上々」だが

では、実際に「介護助手」を導入したことによる効果はどうだったのでしょうか。介護職員等へのアンケートを抜粋してみると、以下のような反応が上がっています。

「周辺作業負担が軽減され、利用者へのケアの質が向上してきた」、「介護助手一人(の参入)で、1日190分直接介護にかかわる時間が増加、残業時間も削減された」、「当初、高齢者を職員に受け入れることに戸惑いや混乱もあったが、多様な人材を『受け入れていく』という組織力がついたと思う」、「もっとも大きな変化は、介護職員たち自らが専門性をつけたいという意識が強くなってきたこと」

なお、同事業に際しては、事前に「就労マッチング」(介護助手側が希望する勤務時間と、施設側が「働いてもらいたい」と考える時間帯のすり合わせ)が行われています。それによれば、早朝6時から8時という「入所者の起床時で業務が多い一方、人手が少ない時間帯」を希望する人もいて、「現場としては大変に助かった」という声も上がっています。

事前の業務整理にかかる負担をどう見るか

こうして見ると、導入効果の高さが強調されていますが、成功に向けては一定の前提や課題があることも示唆されています。

たとえば、今事業に際しては、介護助手に担ってもらう「周辺業務」の切り出しと、「マニュアル化すれば誰でもできる業務なのか、一定の専門知識、技術・経験が必要なのか」といった「ランク分け」作業が事前に行なわれています。その「切り出し」と「ランク分け」は施設によって多様であり、「固定化しないことが重要」という指摘がなされています。また、業務の切り出し等にともなう、介護職員側の内部研修の実施も行なわれています。

ここで考えたいのは、老健以外の施設や他サービスの現場でも「業務の切り出し」を円滑に行なうことができるのかという点です。介護職の場合、利用者の生活にかかる全人的なサポートという業務性格の中で、中核業務と周辺業務が密接に結びつかざるをえない(両者の結びつきが伴わないとサポート効果が薄れてしまう)状況も少なからず見られます。たとえば、介護職の比重が高まる老健以外の現場では事情が異なる可能性もあります。

つまり、介護助手を効果的に受け入れるのであれば、各現場の業務実態を職員の視点で丹念に整理する作業が欠かせないわけです。そのための集中的な研修、リーダー・管理職によるマネジメントも当然必要となります。

となれば、その負担を法人としてきちんと評価しなければなりません。その評価なくして、人材不足の解消もありえず、効果の追究を焦れば「かえって現場が混乱する」という本末転倒にも陥りかねません。国としても、介護サポーターなどを特効薬的に持ち上げる前に、介護職本来の業務評価をきちんと行なうことから始めるべきではないでしょうか。