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配信日:2021/07/15  カテゴリ[ニュース解説]  閲覧数[6671]

介護職員数の統計にかかる疑問

第8期介護保険事業計画(以下、事業計画。第8期は2021~2023年度)にもとづく「介護職員の必要数」が公表されました。全国の保険者が導き出した「介護サービスの必要量」から算出されたものです。第8期末となる2023年度までに、約233万人(対2019年度比で+約22万人)が必要とされています。

前回第7期の「必要数」は達成されたのか?

今回の数字を掘り下げる前に、過去のデータに少しスポットを当ててみましょう。

1つ前の第7期(2018~2020年度)の事業計画にもとづく目標では、2020年度末までに約216万人の介護職員が必要とされていました。2020年度末の数値は未公表ですが、2019年度末は211万人となっています。

2016年度末時点の介護職員数は、約190万人です。そこから3年後の2019年度末の数値との差は、約20万人となります。当時、必要数を確保するうえで年間6.5万人増が目指されていましたから、「6.5万人×3年=19.5万人」で、少なくとも2019年度末の時点での目標は「達成」されたことになります。

ただし、注意したいことがあります。介護職員数のデータについて、2018年度から算出方法が変わっていることです。

中長期目標を示したのに「集計方法の変更」?

介護サービス事業所・施設における介護職員数調査については、2009年度から全数回収が困難となっていました。そこで、2017年度までは社会・援護局(社会福祉全般を所轄する部署)による推計値が用いられていました。

そして、2018年度からは上記の事業所・施設調査の方法が変わり、調査票の回収率にもとづいて推計する方法がとられています。「集計方法」が変わったということは、数値が変わってくることになります。

古い集計方法は「参考値」として示されていますが、それによれば2019年10月時点での介護職員数は200.9万人。半年の差があるので年度末には204万人程度に増えるとしても、第7期でかかげた目標値と7万人ほどの差が生じてしまう可能性が認められます。

もちろん、今回は古い集計方法の「参考値」も示されてはいます。とはいえ、中長期的な目標値を示しているわけですから、その過程での「集計方法の変更」には問題も残ります。

たとえば、第7期で示された目標を達成するための「総合的な人材確保対策(当時)」も示されています。一つひとつの施策が中長期的にどれだけの「人材確保効果」を上げているのかを分析するのに、2016年度から2020年度の途中で数値の算出法が変わってしまっては検証の意味が薄れかねません。(実際、今回の必要数公表の中では、「第7期と第8期との比較はできない」としています)

国は現場に向けたPDCAサイクルを推進していますが、そもそもの施策側でPDCAサイクルのあり方がゆがむ恐れがあるわけです。

常勤・非常を含めた実人数だけでいいのか?

他にも、「公表すべき数値がこれでいいのか」と思わざるを得ない点が見られます。

たとえば、「介護職員数の推移」上の数値は「常勤、非常勤を含めた実人数」と定義しています。働き方にかかわらない介護職員の総数を記すだけなら、それでもいいでしょう。

しかし、同時にかかげられている具体的な施策を見ると、常勤職員の確保・育成に特に力を入れていると思われるもの、非常勤職員も含めたすそ野の拡大を目指しているもの─という具合に、それぞれ施策において目指す対象が異なっているケースも見られます。

前者であれば、「リーダー級の介護職員の賃金水準アップ」を目的とした「介護職員等特定事業所加算」。後者であれば、「兼業・副業等の多様な働き方モデルの実施」などが、それぞれに該当すると見ていいでしょう。

となれば、全体の数値内での常勤職員や非常勤職員の割合なども示しつつ、これらを「必要数」の中でも反映させるべきではないでしょうか。今回の公表では、必要数と人材確保対策が「併記されている」だけという印象しか伝わりません。つまり、将来に向けて、「一つひとつの施策をしっかり検証する」という施策側の意思が伝わってこないわけです。

その時々の施策の効果が検証できる統計か?

入職する介護職員は、「職業人生をいかに全うするか」を考え、そのために「どのように働くことがベストなのか」を一人ひとりが考えています。置かれた環境(組織内のさまざまな人間関係や待遇差なども含む)によっては、「ここは自分のいるべき場所ではない」などと考えてしまうケースもあるでしょう。

こうした職業人としての「揺れ」を統計で図ることは、確かに難しいかもしれません。しかし、少なくとも目標達成に向けた施策の「どこを検証すればいいか」を掘り下げる中で、後々一つひとつの施策をチャックしやすい数値の扱い方はあるはずです。限られた統計枠の中でも、「よりよい施策のために」という意識さえあれば、少しでも「よりよい統計」のための工夫は発揮できるでしょう。

単純な頭数や連続性に欠く数値を並べるだけでは、(介護資源の質・量をともに改善するという)大きな目標への道筋はますます見えにくくなります。「何のために」が常に検証できる統計を望みたいものです。