ハラスメント防止の継続性に向けて

NCCU(日本介護クラフトユニオン)が、介護事業を展開する42法人と「ご利用者・ご家族からのハラスメント防止に関する集団協定」を締結しました。深刻化する利用者・家族からのセクハラ・パワハラを防ぐこと、それにより現場従事者の保護を目的としたものです。

集団協定に示された具体策とは何か?

今回の協定は、NCUUが労使関係のある法人との間で2015年に発足した「介護業界の労働環境向上を進める労使の会」(以下、労使の会)における締結となります。この「労使の会」では、16年に「(職場における広域的な)ハラスメント防止に関する集団協定」、17年には「ご利用者虐待防止に関する集団協定」を結んでいます。その時々の介護現場の重大課題に対して、労使双方の立場から問題意識の共有を随時図ってきたことになります。

いずれの問題にも共通するのは、被害者側が「誰にも相談できず、一人で抱え込んでしまいがち」な点です。そのため、事態がなかなか表に出ないまま、(今回のハラスメントケースでいえば)被害従事者が精神的ダメージなどを募らせ、離職や(精神疾患等による)長期休業を余儀なくされてしまいます。

この点で、早期から事態の共有を図り、組織で再発防止や被害者へのメンタルケアなどに取り組んでいけるかが問われます。そのための具体策として、各法人とNCCUの双方に「相談窓口」を設置したり、職場内での「情報共有」の周知徹底などが記されています。

利用者・家族に対して「ハラスメントに関する禁止事項や法人としての対処方法」を周知するのも同様でしょう。これについては、利用者側へのけん制という意味合いもありますが、「ハラスメントは許されないこと」を従事者に明確に示すことにもなります。これにより、「自分が受けたことの発信」にかかる心理的ハードルを下げることになるわけです。

具体先を有効化する「もう一歩先」の視点

問題は、事態が生じた場合の法人による継続的な対処がどこまで有効に働くかという点です。「相談窓口の設置」や「利用者側に禁止事項や事態への対処法をきちんと示していく」といった取組みは必要としても、それをもって「法人の役割」が完結するわけではありません。なぜなら、それらはあくまで対症療法であり、問題を根本的に解決するには「ハラスメントはなぜ発生するか」という構造にメスを入れる必要があるからです。

その構造とは何かといえば、利用者や家族の地域における疎外感、社会に対する不信感などがあげられます。「従事者へのハラスメント行為が悪いこと」なのは当然ですが、だからといって「そういう人への支援は切り捨てるべき」という論拠だけで問題解決を図ることはできません。こうした「切り捨て」は安易な「自己責任論」につながる恐れがあり、それが蔓延する社会は、従事者も含めて誰も幸せにすることはできないからです。

決してきれいごとではありません。「切り捨て」論は、ハラスメントに対する継続的なチーム対処にも思考停止を持ち込みます。結果として、従事者への下支えが表面的なものに終わってしまい、ちょっとしたきっかけでどこでも同じこと(ハラスメント)が繰り返される恐れがあります。そうなれば、従事者の根本的な保護にはならないわけです。

真の従事者保護に向けた基本法の制定を

参考になるのが、高齢者虐待防止法です。この法律の正式名称は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」であり、加害者となる養護者の支援をセットで示していることが特徴です。

従事者へのハラスメントも、その定義と照らせば、(やや表現はきつくなりますが)「従事者への虐待」ととらえることができます。となれば、従事者保護は当然としても、法人として「加害者側への何らかのサポート」をセットで考えることが必要です。

となれば、今回のような協定はあくまでたたき台と位置づけ、国に対して「介護従事者の保護」と「利用者サポート」を包括した基本法の制定を求めることが、次のステップになるはずです。NCCUといえば、厚労省の介護保険部会でも代表者が委員に名を連ねています。21年度の制度改正に向けた議論の中で、改めて「根本的な従事者保護」をテーマとした基本法制定を提言してはどうでしょうか。

もちろん、悪質なケースについて、加害者に処罰が必要になることはあるでしょう。しかし、それも基本法の中で定めつつ、社会全体で「ハラスメントをなくしていく」というビジョンに結びつかなければ意味はありません。こうした議論を(労使だけでなく)当事者団体なども含めて進めることが、現場を覆う閉そく感を解消することにもなるはずです。

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