業務切り分けよりも専門性の抽出を

介護施設の人手不足等の課題解決に向けた運営モデルの構築──これをテーマとした厚労省の介護現場革新会議が、第2回の会合を開きました。各種業界団体からのヒアリングなども経て、2019年度からのパイロット事業に向けた業務の洗い出しや役割分担の明確化の方向性などが示されつつあります。

業務の切り分けは専門性向上に結び付くか?

同会議の骨子案では、「周辺業務を明確に切り分けた」うえで、その業務を介護助手等が担うことも有効としています。そして、業務の役割分担は、介護職員の周辺業務からの「解放」と、ケアに専念する中での「専門性の向上」が期待できるというものです。ちなみに、周辺業務としてあげられているのが、配膳やベッドメイキング、清掃などです。

こうした「業務の切り分け」が、本当に介護職の「専門性の向上」に結びつくのでしょうか。個人的には、安易に「これは周辺業務」と位置づけてしまうことが、目指すべき専門性の向上には逆効果になりかねないという懸念を感じています。たとえば、一例としてあげられている配膳やベッドメイキング、清掃にも高い専門性が求められる要素がいくつも含まれていることに注意が必要です。

切り分けられた業務にも多様な専門性が必要

配膳を例にあげれば、その人の咀しゃくや嚥下の状況に応じた調理の形状があったとして、配薬と同じくダブルチェックと顔認証などを通じて慎重に配膳しなければ、大きな事故につながりかねません。業務の延長としての下膳も、その際の完食状況によって利用者の体調異変などを察知する機会となります。

ベッドメイキングであれば、リネンの汚れ(失禁や出血など)から利用者の状態についてさまざまな情報が得られるでしょう。その発見を他職種へとリアルタイムで的確に伝えることで、体調異変の早期対処につながります。その結果として重度化が防げれば、稼働率の低下を防ぎ、自立支援・重度化防止の継続も可能となります。施設経営と介護保険財政をともに悪化させるのを防げるわけです。

掃除についても、居室における利用者の動線を意識することで、「している生活」の維持・拡大に向けた環境を整えることができます。また、手すりやベッド枠の破損に対する気づきなどは、転倒・転落事故等を防ぐうえで極めて重要です。逆に、掃除における不注意が事故につながるというケースもあります。

たとえば、ベッド脇のテーブルに置いてあった利用者の愛読書を、掃除のために少し離れた棚に移動させたとします。それを元に戻さないままにしておくとどうなるか。歩行に介助を要する利用者が居室に戻ってベッドで端座位の姿勢をとり、職員が離れました。本人が愛読書を探して周囲を見渡すと、その本は少し離れた棚の上に。慌ただしくする職員を呼ぶのは気がひけるので、自分でとろうと立ち上がる。当然、転倒リスクが高まります。

専門性の抽出が介護現場のイメージUPにも

上記のような状況で実際に転倒事故が起き、施設側が安全確保の責任を問われたケースがあります。利用者に「ふれる」業務でなくても、本人の生活習慣や価値観(上記のケースでいえば「愛読書に対する思い入れ」など)をきちんと把握できているかどうか。そうした「利用者理解」という視点をもって、安全保持のための専門性が問われるわけです。

介護現場は、同様のシチュエーションの蓄積で成り立っていて、安易に「専門性の必要の有無」という視点で業務の切り分けを行なうことは大変な危険を招くことになります。となれば、まず行なうべきなのは、「業務の洗い出し」に際して「切り分け」の視点ではなく、「そこにどんな専門性が求められるのか」を抽出するという作業ではないでしょうか。

たとえば、先の配膳やベッドメイキング、掃除という業務についても、「介護職ならではの専門性」が求められるポイントはどこにあるか。それをピックアップしたうえで、専門性の強化を図るにはどのような訓練が必要かを整理します。そのうえで、「その専門性を果たしている施設」(そして、そうした職員)をきちんと処遇上で評価しなければなりません。

そうした「専門性の抽出」という作業を行なうことが、そのまま「介護現場ではどのような専門性が発揮されているか」という社会に向けたメッセージとなります。これによって、プロによる介護業務の価値を高められれば、厚労省が目指している「介護現場のイメージアップ」にもつながるでしょう。 「業務を切り分けて介護助手に任せる」というビジョンは、一見効率的であるように見えて、実はさまざまな現場リスクを拡大する危険を伴っています。同会議で今後、専門性の抽出を指摘できる業界団体が出てくるかどうか。これが現場改革のカギとなりそうです。

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