虐待の根絶に必要な国と業界の決断

施設等の職員による利用者への暴行事件などが当サイトでたびたび取り上げられています。利用者が死亡したり、刑事事件として加害職員が逮捕・拘留されるといったケースもある中、業界のみならず社会全体で問題意識をもう一段高めていくことが不可欠です。

高齢者虐待防止に向けた、近年の国の対策

最新(2016年度)の「養介護施設従事者等による高齢者虐待」の実態調査では、虐待判断件数が過去5年で約3倍増の452件にまで拡大しています。こうした数字が示されるたびに、「虐待への社会的関心が高まる中での通報件数の拡大」が要因として上げられますが、「それだけではない」要因を国としても掘り下げざるを得ない時期に入っています。

上記の調査結果を受けて、厚労省は18年3月に「高齢者虐待の状況等をふまえた対応の強化」について、各都道府県知事あての通知を発出しました。同月には、「高齢者虐待への対応と養護者支援」にかかるマニュアルが10年ぶりに改訂されています。また、厚労省老健局の2019年度予算案では、高齢者虐待の対応にかかる予算額を対前年度比で約1.5倍まで増やすことも明らかになりました。

さて、上記の通知やマニュアルは自治体向けですが、通報等を受けての調査や監査、改善勧告・命令といった流れの中で、事業所・施設に対する具体的な指導内容も示されています。逆に言えば、虐待事例の再発防止などに向けて、現場として「何をすればいいのか」というヒントも示されていることになります。

現場管理者の負担ばかりが大きくならないか

では、そこに「現場の現実に応じた実効性」が伴っているのでしょうか。たとえば、虐待防止の視点の一つである職員のストレス等の緩和策として「管理者が職員のストレス状況や現場の環境を把握できる体制」や「職員が気軽に相談できる体制」が示されています。

前者については、「管理者はヒヤリハット報告書を利用し、施設内状況を把握する」としたうえで「職員に報告書の重要性および運用を教育し、状況把握ができる報告書の提出をうながす」などとしています。また、後者については、「管理者はケアの度合いが高い利用者や認知症の利用者等の状況から、適切に職員への声かけを行なう」ことや、「その際に不満や不安の兆候がある職員に対し、相談の受入れ体制を示す」という具合です。

これらは、あくまで自治体から現場への指導内容にすぎません。それにしても現場管理者にかかる負担が大きく、現場職員からの相談対応なども「形だけやっておしまい」となる懸念が残ります。その場合、現場職員から見れば、「(ストレスがかかる事例等の)相談をすることで確実に事態が改善される保証」が乏しくなり、「行き場」がない絶望感はかえって高まることにもなりかねません。

基本は「リスクの高いケア」での2人体制

こうした指導を行なうのであれば、(1)日常的な管理者の業務負担をアセスメントしたうえで改善を図る、(2)現場職員が「管理者に相談したことでストレスの改善が図れた」と実感できる組織対応の基盤を作る、ということが欠かせないでしょう。当然、そこには介護現場に強いられる制度的な側面を検証していくことも必要になるのではないでしょうか。

個人的には、一つのケア場面で「2人(ペア)体制」をとることが、虐待要因を軽減する前提と考えます。少なくとも、骨折や表皮剥離等のリスクが高い利用者、BPSDが十分に改善されていない認知症利用者に対しては、上記を原則とする制度設定が必要でしょう。

2人体制であればケアの負担が軽減されるだけでなく、ペアを組む相手の目を意識することで「思わず手が出てしまう」状況を防ぎやすくなります。また、骨折や表皮剥離等のリスクがある利用者に対し、ペアを組む相手に注意を促したり、BPSDの著しい認知症の人に対して、1人が心理的に落ち着かせる声かけ等に専念できるメリットもあるでしょう。さらには、本当に虐待が行われたのかどうかについてチェックの目も入ることで、いわゆる「冤罪」的な状況も防ぎやすくなります。

しかし、こうした「2人体制」のためには、それに見合った報酬増もセットで考えなければなりません。結局は国民の保険料負担、利用者負担の問題にかかわるわけです。とはいえ、上記のような「2人体制」が、虐待・事故防止という社会的にも関心の高い課題の解決に資することを施策者がきちんと説明できれば、国民的な合意(またはサービス提供者と利用者の合意)を図ることは不可能ではないはずです。問題なのは、国がそうした部分に踏み込むことに尻込みし、中途半端な指導をもって「対策」としてしまうことです。虐待の根っこに踏み込むには、国や業界に多くの決断が必要なことを忘れてはなりません。

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