新処遇改善策、その先にあるもの

12月26日、厚労省の介護給付費分科会で「19年度介護報酬改定に関する審議報告」が示されました。19年10月の消費増税に合わせて実施される、新たな処遇改善策のしくみが中心です。さまざまな意見も散見される新処遇改善策ですが、これによる現場への影響やその先の課題について改めて掘り下げます。

処遇改善の現場実感よりメッセージ性重視?

今回の新たな処遇改善策、さまざまなポイントはありますが、やはり以下の2点が特に注目される部分でしょう。

1つは、事業所内での具体的な配分方法について設けられた条件です。具体的には、経験・技能のある介護職員(事業所裁量による勤続10年以上の介護福祉士が基本)から、以下のいずれかの者を設定すること。それは、(1)月額8万円の処遇改善となる者、または(2)処遇改善後の賃金が年収440万円(役職者を除く全産業平均賃金)以上となる者です。

事業所内の配分については、各区分(上記の経験・技能のある介護職員、その他の介護職員、その他の職種)内では柔軟に設定できるとしています。とはいえ、介護職員の中で上記の設定を行なうことが前提となる点で、まず、この人材をどうやって設定するかに頭を悩ませる事業所も出てくるでしょう。

この条件設定を見る限り、今回の施策は「すでに現場で働いている従事者の処遇改善の実感」より、どちらかと言えば「処遇改善自体の社会に向けたメッセージ性」を重視している施策と言えます。つまり、「業界で一定の経験を積むことによる処遇改善効果」をサンプル的に明らかにすることで、労働市場にから介護現場へ目を向けさせようというわけです。

「片輪だけで車を動かす」施策にならないか

問題は、審議報告内に記された意見にもあるように、「一部の職員に過度に配分することによる職場環境への影響」です。これが現実の混乱につながったとき、現場従事者としては「いったい誰のための施策なのか」という疑問が噴き出しかねません。

これから介護現場を目指そうとする人材層と、すでに従事している人材層は、外部から見る以上に密接につながっています。たとえば、若い人たちを中心に福祉系高校や福祉専門学校の先輩・後輩というつながりで、SNS等による情報交換は常に行われています。

先の「誰のため?」という現場従事者の実感的な疑問は、これから介護業界を目指そうとする人たちにもあっという間に伝わるでしょう。そうなれば、国が狙う「業界のイメージ改善」を目指したメッセージ性は、すぐに見透かされてしまう可能性もあります。

中には、処遇改善の具体的なサンプルケースそのものが、「政府による施策効果」のアピール材料に使われているのではないか──そんなうがった見方も浮かびかねません。こうした見方を転換するには、現場従事者のすべてが実感できる報酬上の底上げを組み合わせることが必要です。しかし、「そこまで拠出を膨らませることができない」という財政上の都合があるゆえに、「メッセージ性」が優先されてしまったと言えるのではないでしょうか。

いうなれば、今回の施策は「メッセージ性と現場実感」の両輪でなく、片輪だけで車を動かすような施策になる懸念もあるわけです。

ケアマネの業界構図も激変する可能性

さて、もう1つのポイントは、特にケアマネにとって深刻な課題です。具体的には、介護職がいない独立型事業所には、今回の新処遇改善はおろか既存の処遇改善策の恩恵もおよばないままになっている点です。

極端なケースとして、「独立型事業所のケアマネ」と新処遇改善によって設定される「経験・技能のある介護職員」の給与が逆転する可能性もあります。それでなくても、複数サービスを展開する大規模法人と独立型事業所のそれぞれのケアマネの給与格差は明らかに広がるでしょう。そうなれば、ケアマネの就業先も前者への偏りが大きくなり、独立型事業所は存立の危機にも立たされかねません。

ここで、予想されるのが、財務省などが提案している経営の大規模化・協働化への誘導策です。経済財政諮問会議が示した工程表では、この介護経営の大規模化・協働化を進めるための「必要な措置」を2020年度中にも講ずるとしています。たとえば、PFIの適用拡大等による官民ファンド的なものを設け、大規模法人による独立型事業所の吸収・合併や報酬配分の協働化などをしくみとして立ち上げることなどが検討されるかもしれません。

今回の新処遇改善策は、業界の姿そのものを大きく変える可能性もある。そうした点まで見すえることが必要になりそうです。

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