介護保険に就労支援策が導入される⁉

厚労省の前次官が、「地域包括ケアの深化」をテーマとした講演を行ない、「健康寿命の延伸」に関して現場の協力を呼びかけました。「健康寿命の延伸」といえば、首相官邸で開かれている未来投資会議でも大きな論点の一つとなっています。介護保険制度にも、今後はさまざまな影響を与える可能性があります。

高年齢者就労と健康延伸の関係を示した資料

まずは、未来投資会議で内閣官房日本経済再生総合事務局が提示した資料に注目してみましょう。いくつかのテーマの1つとして、高齢者就労の課題が取り上げられています。その中に「高齢者就労の健康予防・維持への寄与」と題したデータが見られます。

1つは、2018年5月の経済財政諮問会議で示されたもので、都道府県別に「65歳以上就業率と1人あたり介護・医療費(年齢調整後)」の関係を分布図で示したものです。それによれば、65歳以上の人の就業率が高い都道府県は、1人あたり介護・医療費が低い傾向にあることが明らかであるとしています。

もう1つは、仕事の有無によって、自立率(日常活動度が低下せずに自立した生活を継続して営むことができている人の割合)の経年変化がどうなっているかを示したデータです(出典は、厚労省の次期国民健康づくり運動プラン策定専門委員会)。ここでは、追跡年数が経つほど、仕事がある人とない人の自立率が開いていく(仕事がない人の自立率低下が著しくなる)様子が見てとれます。

現場に「より強い協力」をうながす流れ?

中長期的にわが国の労働力人口が大きく減少するのは明らかで、その課題解決の一つとして「高年齢者の就業促進」が政府の目玉施策となりつつあります。しかし、「経済的理由から働かざるをえない」という高齢者も多い中、そうした事情に便乗するのでは施策自体がネガティブなイメージを内包しかねません。

そこで、就労と健康寿命の延伸をリンクさせることにより、「いつまでもその人らしく元気でいられる」ことと「社会保障財政の悪化防止にもなる」という2点を絡ませたと見ることができます。それによってポジティブなメッセージを打ち出したと考えられます。

前厚労次官の講演も、そうした流れの中で見ると「政府がこれからしようとしていること」が浮かんできます。講演では、高齢者の活躍の場づくりについて現場の協力を訴えていますが、こうした政府に近い立場の人の発言というのは、「より強い協力をうながす腹案」が隠されている場合があります。

たとえば、要支援者の予防給付の中に、就労支援に力を入れたしくみを導入することが想定されます。具体的には、就労支援を見すえた予防マネジメントの強化を保険者にうながしていくこと(インセンティブ交付金の評価指標に追加で組み込むなど)。また、若年性認知症の人の就労継続支援に向け、新加算を設けるといった施策も考えられそうです。

「活躍の場を整えればOK」とはいかない

もちろん、実際に行なうとなれば、それにともなう現場の実務力も底上げが必要です。今回の講演などからは、「活躍の場やしくみ」を設けることで、当事者が自律的に社会参加を果たせるというイメージを描いている様子が伝わります。しかし、社会参加に向けた道筋はそう簡単なものではありません。

たとえば、認知症の人の社会支援を進める中で、支援者のスキルが問われるのが以下のような場面です。それは、十分にBPSDが緩和され、社会参加に向けた「その人らしい活動」ができていても、中核症状の進行やちょっとした環境変化によって「突然できなくなる」という瞬間が生じることです。

本人にとって、その瞬間は心理的な均衡状態を強く乱し、再び著しい混乱状態に陥ることもあります。支援者としては、そうなる前の「兆し」時点で素早く介入することで、本人の心理的安定の継続を図ることが重要になります。それができるようになるためには、相応の訓練が必要であり、そのための環境を国がしっかり整えなければなりません。

高齢者の活躍の場を増やし、健康寿命の延伸を図る──それ自体は口当たりのよい施策目標ですが、実際に行なうとなれば、(認知症以外のケースであっても)専門知識を備えたサポーターの存在は欠かせません。そうした人材育成とその評価にきちんと着目できるビジョンがあるかどうか。入門的研修等で支え手のすそ野を広げるのはいいとしても、「要となるプロ」の土台がぜい弱では、せっかくの施策も看板倒れに終わりかねません。

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