ハノイでみた送り出しの現場 【現地取材】ベトナムからどんな介護人材が来るのか 関係者が慎重になる2つの理由


《 撮影:結城康博 》

良いか悪いかはともかく、日本の政府は非常に大きな決断を下したと思います。外国人の受け入れを大幅に増やす方向へ思い切ってかじを切った話です。

昨年11月、技能実習制度に介護分野が加えられました。来年4月には新たな在留資格も創設される予定です。実際にどれくらいの人数がやってくるのか? どんな人材がサービスを担うことになるのか? そうした感触を得ようと、私は8月中旬にベトナムの首都ハノイへ行ってきました。その時に知り得たことをまとめ、2回に分けて皆さんへ報告しようと思います。

公認送り出し機関は実績十分

ハノイを回ったのはおよそ半年ぶりでした。技能実習制度に介護が加わったばかりのタイミングだった前回と違うのは、ベトナム政府公認の送り出し機関が生まれていることです。

教育プログラムの提供など希望者の出国を包括的にサポートし、カウンターパートとの調整も円滑に行う―。それが送り出し機関の主な役割です。この間に公認されたのは6社。希望者から徴収する費用に上限(今は40万円。今後変わる可能性もある)を設けるなど、政府が定めたルールを受け入れて運営している点が特徴です。私はここに的を絞って3社を訪ねました。今回はこのうち、多くの情報を得られた2社について説明していきます。


《 訪問したA社 》

まず1つ目のA社。人材の送り出しで大きな実績を持つ会社です。日本や台湾、マレーシアなどのアジア諸国だけではありません。サウジアラビアやUAE、クウェート、イスラエル、ロシア、チェコなど、様々な国を相手にしています。日本にも支社があります。技能実習制度を活用し始めたのは2013年から。食品製造や機械金属、建設、農業といった分野で、これまでに3000人超の実習生を来日させています。そこが今回、介護の分野にも参入してくることになりました。

日本の社福が教師を派遣


《 代表に語って頂きました 》

拠点はハノイ中心部から車で30分。代表と面会し、直にお話を頂きました。介護の技能実習生としての来日を目指す希望者が既に150人ほどおり、ここに住み込んで研修を受けているそうです。多くは看護の学校を出た人ですが、そうでない人、あまり関連する分野を学んだことのない人も含まれています。

研修は概ね半年間。まずは日本語を徹底的に学びます。ここで日本語能力テストのN4レベル、あるいはN3レベルへの到達を目指します。一気にN3まで頑張る生徒も少なくないと聞きました。教師は互いに競わせています。N3以上に達した生徒が多いと優遇されるなど、成果を反映させる評価の仕組みが設けられていました。


《 希望者が学ぶ学校の様子 》

日本の介護技術の基礎も学習します。A社は日本のある社会福祉法人と既に提携していました。その法人の職員が定期的にここへ来て、介護技術の先生になっているそうです。法人は先生役の人材を無料で派遣し、A社は実習生を優先的に送り込む―。そうした関係が構築されていました。ここでの半年間で介護技術を学ぶ時間は、だいたい以前の「ヘルパー3級」と同じくらいでしょうか。これはEPAの候補者と大差ありません。設備もそれなりに整っており、なかなか力を入れて研修に取り組んでいるなと感じました。


《 介護技術の研修設備の一部 》

まずは選りすぐりの人材から

代表によると、今年の11月ごろに第1陣として5人ほど日本へ送り出す予定だそうです。まずは選りすぐりの人材から、少しづつ、段階的に送り出していく―。これがベトナム側の方針のようです。

私が思っていたよりずっと、ベトナムの関係者は慎重さを持っていました。ポイントは主に2つあります。


《 職員らのオフィス 》

1つは日本の既存の課題。これまでにあまり良くない実習先も存在することが分かっており、実習生が失踪してしまうケースもあとを絶ちません。ベトナム側もそうした実情をよく知っていました。なにしろ介護分野は初めてです。まずは現場の様子や実習生の反応を見ていこう、と思っているフシがありました。日本側もしっかりするところはして欲しい、という空気も伝わってきました。

もう1つが評判。いきなり知識、技術、コミュニケーション力が著しく足りない人を送り出すわけにはいかない、ということです。何か大きな問題が起きてしまうと長く響きますので、まずは質の高い人材で信頼を得たいと考えているようでした。やはり最初だからでしょう。ベトナム側はそれなりに危機感を持っており、しっかりガバナンスを効かせようという雰囲気を強く感じました。日本の世論の動向も気にしています。希望者を来日させる道を塞がないよう、「やはり技能実習生じゃだめだ」という認識を広がらせまいと気を配っていました。


《 職員らのオフィス 》

私はこれらの事情により、ベトナムからは当面の間それなりに優秀な人が来られるだろうとみています。ただし、徐々に人数が増えていく将来は分かりません。送り出しの現場がどのようになっているか、今後も継続してみていく必要がありそうです。

次回はB社のレポート。実習生がどんなことを期待して来日を目指しているか、なども掘り下げます。

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