認知症事故の賠償保険はどんな制度か? 大和市はなぜ全国初の導入に踏み切ったのか?


《 大和市:文化創造拠点シリウス 》

認知症1万人時代に備えるまち―。今後の超高齢化を念頭に自らをそう明確に位置づける自治体が登場した。以前から「健康都市」を目指す方針を掲げてきた神奈川県大和市だ。徘徊中に起きた事故の損害賠償責任を補償する制度を全国で初めて導入し、改めて大きな注目を集めている。

今年4月には「70歳代を高齢者と呼ばない都市 やまと」も新たに宣言。人生100年時代を見据えた前向きな姿勢を広く印象づけた。そこで大和市を訪問。市役所の担当者に「はいかい高齢者個人賠償責任保険」の詳細を説明してもらった。続いて、大木哲市長に街づくりのビジョンやモットーについてインタビュー。大木市長は「軸となる戦略が最も大事。我々は“健康”を据えている」と語った。(取材・編集:Joint編集部 北村俊輔、青木太志)

「最初は手探りの状態だった」

認知症事故の損害賠償補償の仕組みが話題ですが、どんな制度なんでしょう?


《 大和市健康福祉部高齢福祉課 》

認知症で徘徊している間に起きた事故で損害賠償責任を負った場合に、最大で3億円まで補償する制度です。例えば、線路に侵入して電車の損壊や遅延を招いてしまった、自転車でぶつかって相手に怪我を負わせてしまった、街なかで他人のものを壊してしまった、といったケースに適用されます。

対象者の範囲は?

行方不明などに素早く対応するための「はいかい高齢者等SOSネットワーク」に登録している大和市民です。被保険者は今年9月1日の時点で292人。市が公費で保険会社と契約を結ぶ形をとっているため、認知症の方やご家族などが保険料を支払う必要はありません。

どれくらいの費用がかかりますか?

昨年度の予算額が323万2000円。今年度は430万円まで上積みしました。被保険者が増えれば予算額も増やさざるを得ません。ただ、状態の変化によって徘徊することがなくなり対象から外れる方もおられます。また、各損害保険会社から認知症の方向けの様々な商品が開発され、今後は国の施策も変わってくると思われることから、このままずっと予算が膨らんでいくとは考えていません。

導入にあたって難しかったことは?

私たちは保険のプロではないですから…。本当に実現できるのか、どんな形をとるのが望ましいのか、どれくらいの費用がかかるのか―。最初は手探りの状態で、損害保険会社と協議を重ねながら具現化しました。補償の内容や費用など今後も必要な見直しを行い、市民にとってより良い制度に磨き上げていかなければいけません。

「ただ傍観してるなんてあり得ない」

ここからは場所を市長室へ移した。大木市長には、この制度の導入を決断したきっかけや背景から話してもらった。

大木市長、損害賠償補償の仕組みの導入を決めたきっかけを教えて下さい。

やはり愛知県の事故をめぐる2016年の最高裁判決です。実は大和市には踏切が32ヵ所もあるんですよ。その分だけ鉄道事故のリスクも高い。この環境で認知症の方やご家族が安心して暮らせるようにするためにはどうすべきか、と考えて導入に至りました。



《 大和市の踏切 》

全国初の導入ということで、やはり思い切った決断ですよね?

大和市の今の人口は約23万5000人ですが、推計では2025年に市内の認知症の方はおよそ1万人となる見通しです。この数字は何を意味するのか? 医療・介護の関係者や親族なども含め、本当に多くの市民が認知症の方と関わりを持つようになるということでしょう。我々がただ傍観しているだけなんて絶対にあり得ません。「認知症1万人時代に備えるまち やまと」の宣言はそうした決意表明なんです。お尋ねの補償制度も、当事者の気持ちにできるだけ寄り添っていくという市の姿勢を形にしたものです。

都市計画のど真ん中に“健康”

大和市の宣言といえば、今年4月の「70歳代を高齢者と呼ばない都市 やまと」も話題となりました。

そうですね。市民の皆さんからも賛同の声を多く頂きました。例えばタレントのタモリさん(72歳)や俳優の西田敏行さん(70歳)を“高齢者”とみていますか? まだまだ現役で元気にご活躍なさっています。見た目や身体機能だけでなく感覚も老いていない。若者に相通じるものを持っておられ、ひと昔前の70代のイメージとは全く異なるでしょう。そうした認識が既に広く共有されていますよね。もちろん我々は、いざ介護が必要になった時の支援の充実にも努めていきます。

人生100年時代と言われています。

我々は2009年に「健康都市 やまと」を宣言しました。人、まち、社会の3領域でより健康な姿を目指すという趣旨で、我々にとって最も重要な戦略なんです。つまり大和市は、約10年前から都市計画のど真ん中に“健康”を据えて歩んできました。やはりいつの世も最も大切なのは軸に据える戦略です。これがしっかりしているので、あとは社会環境の変化に応じた戦術をとっていくだけです。

私語もOK! 大人気の「健康図書館」

これまではどんな戦術を?


《 大和市のシリウス:内観 》

例えば大和市には日本で最も人が集まる図書館「シリウス」があります。来館者はオープン1年で300万人、1年8ヵ月で500万人を超えました。これも「健康」という大きな戦略に基づく戦術です。一般的に図書館では私語を慎むのがマナーですよね。ここではそれもOKとしました。高齢者や子供、親御さん、学生など、多くの市民が時間を過ごせるスペースをたくさん設けています。親子や友達、知り合いと会って話すことって、とても自然で健康なことですよね。我々は極めて大事で貴重な機会だと考えています。

明るくてきれいで“居やすい”ですよね。

「シリウス」が受け入れられたこともあり、大和市では「我々は健康都市を目指している」という理解がかなり浸透してきました。今後もこの戦略を推し進め、認知症1万人時代や人生100年時代に向けて積極的に手を打っていきます。




《 大和市長 大木哲(おおきさとる)》

東京都出身。昭和23年生まれ。青山学院大学経済学部卒。サラリーマン生活を経て、鶴見大学歯学部に入学、卒業。勤務医を経て、歯科医院を開設。

平成7年の統一地方選挙において、新進党より神奈川県議会議員選挙に立候補し、初当選。2期目の選挙では、民主党より立候補し当選。平成15年、3期目当選。平成19年、大和市長選挙に立候補し当選。第14代大和市長に就任。平成23年、2期目の選挙に立候補し当選。第15代大和市長に就任。平成27年、3期目の選挙に立候補し当選。第16代大和市長に就任。現在に至る。

コメント[13

コメントを見るには...

このページの先頭へ