在宅療養高齢者の“食べること”を支える取り組み【PR】

 

<取材> 猪原歯科・リハビリテーション科 副院長 猪原 健 先生

歯科が訪問診療とリハビリテーションを行う意味

猪原歯科・リハビリテーション科では、20年以上も前から歯科訪問診療を行っています。依頼があれば、患者さんの自宅はもとより、介護保険施設や医療機関を訪れ、むし歯治療や義歯の調整などの歯科診療や、誤嚥性肺炎を予防するための口腔ケアなどを実施します。

「これまでの外来診療や訪問診療を通して、歯と口腔内の健康保持が“食べること”を守るのだと実感しています。ですから、歯科医師は食のゲートキーパーでなければならない。そもそも訪問診療を始めたのは、現院長(猪原信俊先生)が、精神科病院で歯科診療を担当するなか、嚥下機能が患者さんの身体状況に大きな影響をもたらす例を体験したことに端を発しています。抗精神病薬の副作用などによって食機能が低下した患者さんに対し、歯科衛生士が定期的に介入し口腔ケアを提供したところ、患者さんの嚥下機能が回復、誤嚥性肺炎の発症が大幅に減少したのです。以来、当院では、『歯や口腔内の健康』とその先にある『食機能の維持・改善』に着目した歯科医療を実践しています」と話すのは、副院長の猪原健先生です。

近年では、言語聴覚士(ST)による摂食・嚥下機能のリハビリテーション(以下、リハビリ)にも力を入れており、さらに管理栄養士による訪問栄養指導もスタートさせ、より“食べること”を視野に入れた歯科診療を展開しています。

機能と栄養の両面からの診療で“食べること”を支える

同院の診療では、歯科治療とともに、歯科衛生士による専門的口腔ケア、STによる機能訓練、管理栄養士による栄養指導がそれぞれ柱となっています。院内には、待合所のそばにキッチンスペースが設けられており、嚥下食や高カロリー食の料理教室や、個々の患者さんに対する栄養指導が行われています。また、嚥下造影検査を行うためのエックス線透視装置と院内・訪問時に使用できる嚥下内視鏡も備え、患者さんの摂食・嚥下機能の状態を正確に把握できるようにしています。

言語リハビリ室、X線透視装置

「最近高齢者の病態としてよく聞かれる『サルコペニア(筋肉量の減少による全身の筋力および身体機能の低下)』や、その前段階とされる『フレイル(加齢や慢性疾患により心身の活力が低下し脆弱性が出現した状態。虚弱)』では、これまでの食習慣や、栄養についての知識のなさも大きな要因となっています。サルコペニアもフレイルも摂食・嚥下機能の低下をもたらすことが多く、“食べること”を困難にします。つまり、その人のこれまでの食が、結果的に自らの食を阻害することになるわけです。そういったリスクを減らすことも、私たちの役目だと思っています」(猪原副院長)

そのため歯科医師の診察でも、口腔内のトラブルに対する治療のほか、「どのような食事をしていますか」「食べにくくはないですか」など、食事についての問診を必ず行います。食機能に異常があった場合は歯科衛生士やSTが、食事内容に問題があった場合は管理栄養士が対応します。訪問栄養指導が必要なときは、かかりつけ医と連絡を取り、訪問栄養指導を依頼してもらいます。

「歯科医師が食べるための道具(歯、口腔)を整え、歯科衛生士がそのメンテナンスを行い、STがその使い方を指導し、管理栄養士が食についての教育を行う──これが歯科における“食べること”を支えるメンバーとその働き。チームで取り組むことで、より効果的なリハビリや支援ができていると思います」(猪原副院長)

低栄養を改善するための選択肢の1つ「栄養補助食品」

高齢者の食事に関して多くみられる問題点は低栄養です。本人も家族もそれに気づいていないことが多く、老年期になってもそれまでの食習慣を継続していることが少なくありません。

「中年期までは『太りすぎないように野菜をたくさん取りましょう』といって、それに沿った食事を考える。しかし、老年期になり食が細くなると、そういう食事内容ではカロリー不足になってしまいます。その人が食べられる量で、いかに栄養を取るかということが大切。そのようなとき、栄養補助食品をうまく取り入れることは有効な方法の1つだと思います」(猪原副院長)

保管例

また、疾患や身体機能の低下も低栄養につながります。例えば、脚力が衰えると、日常的に運動量が減り、食欲がわかなくなり、食べられなくなるといった連鎖が起こってしまいます。こういった問題を抱えた人には、機能面と栄養面からのサポートが必要になります。認知症によって食機能が低下した人に、同院による訪問診療と栄養指導、訪問リハビリが対応した例を紹介します。

[認知症を有する90歳代の女性に対応したケース]

医療機関入院中に食事が進まないとのことで、当院へ嚥下機能評価の依頼があった。認知症のために目で見て食べ物を認識する「先行期」に問題が生じており、食事の摂取量が伸びないことが判明。きざみ食も吐き出してしまう。退院後は、デイサービス(2カ所)と言語聴覚士による訪問リハビリの利用となるため、自宅とデイサービスの利用時の食事について話し合いを行った。
自宅での食事の用意は娘が担当。ミキサー食調理の指導は難しいと判断し、1日に必要なカロリー摂取のために、栄養補助食品「クリミール」を導入することを提案。1日3本からスタートした。その後4本飲めるようになり、次第に栄養状態が改善。市販のミキサー食を少しずつ摂取できるようになった。
デイサービスには市販のミキサー食を持参。現在も市販のミキサー食を食べながら、補助食品としてクリミールを利用している。

「このように、嚥下機能には問題がなくても、認知症によって食べられなくなることがあります。娘さんは介護が初めてで、ミキサー食を調理することが難しい状況でした。そこで、本人も口にしやすく、きちんと栄養が取れ、娘さんも扱いが楽な栄養補助食品を導入しました。高カロリーの栄養補助食品を継続的に利用しても大丈夫なのかという問いもありましたが、まずは毎日のきちんとした栄養摂取が大切であることを家族に理解してもらい、食環境を整えました。毎日の栄養が確保されたことで、食機能も向上してきています」(猪原副院長)

食が細くなっているケースでは、食事量を増やして栄養を摂取することは難しくなります。その場合、栄養補助食品のような高カロリーで栄養バランスのよいものに“置き換える”ことがよい方法だといいます。

在宅療養を支えるケアマネも“食べること”に注目してほしい

同院には居宅介護支援事業所が併設されています。その名も「猪原歯科おいしく食べる居宅介護支援事業所」。在宅での摂食・嚥下リハビリや食支援により力を入れたいと、同じ法人内に設けられたものです。施設管理者で専従のケアマネジャー(以下、ケアマネ)である金子祥恵さんは、ケアマネにも利用者さんの食にもっと注目してほしいと話します。

居宅介護事業所

「例えば、配食サービスを受けていても、1人前を2人で分けていたり、昼夜にわたって食べていたりするケースもあるのです。配食サービスが入っているからと安心してしまうのではなく、それをどのように食べているかまで確認することが大切。ケアマネの方は、どうしても介助サービスに目が向きがちです。しかし、毎日の食事もその人の生活を支える大切な要素だということを、もう一度見つめ直してもらえればと思います」(金子施設管理者)

たとえ胃ろうを造設していても、嚥下機能を改善することができれば経口による食事は可能になります。口から食べることが利用者さんの心身にもたらす影響は大きく、その後の療養にもかかわってきます。「ケアマネの方の仕事は、対象となる人を心身の状態と生活から広くアセスメントし、長期目標とそれに近づくための短期目標を立て、支援を組み立てることです。その場合、介護ニーズだけでなく医療的優先順位も考慮して、何が必要かをしっかりアセスメントしてほしい。その人のこれからの生活をよりよいものにするために今何をすべきかという視点に立ってもらえればと思います。ケアマネは、いろいろな職種そしてサービスをつなぐコーディネーターです。皆さんが在宅療養を支えるカギであることを忘れないでほしいですね」(猪原副院長)

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