介護人材の権利擁護新法も視野に

厚労省が、介護現場での「利用者・家族から職員へのセクハラ・パワハラ」について実態調査に乗り出します。今年6月「UAゼンセン日本介護クラフトユニオン」が公表した調査結果などがきっかけとなった動きです。現場の介護人材を守るべく、国として実効性のある施策へとつなげられるのでしょうか。

現場への「投げかけ」では問題は解決しない

今回の調査は、訪問介護等の訪問系サービスが主な対象となる予定です。利用者の居住空間の中での「密室性」がセクハラ・パワハラを生み出しやすい環境を考えれば、確かにここから着手することが妥当とはいえます。

ただし、通所系や施設系でも、利用者・家族からの威圧的な言動などが介護人材を追い詰めるケースもあります。また、組織内でのセクハラ・パワハラの問題も存在する中、より広い視野からの対策も求められます。その点で、今回の調査はあくまで入口に過ぎず、「介護現場で働く全人材の人権を守る」という目標を見すえる必要があります。

問題は、調査結果を受けての具体的な施策のあり方です。「利用者・家族への啓発」や「法人向けの対応マニュアル」といった、当事者や現場への「投げかけ」的な施策で終わってしまうのでは不十分でしょう。大切なのは、「国の責任で介護人材を守る」という視点であり、社会保険事業を運営・管理する側の責務にもきちんと踏み込まなければなりません。

現行の「複数名訪問」はなぜ機能しないのか

さて、訪問系サービスにおけるセクハラ・パワハラに対し、現行でも「手立て」がとられていないわけではありません。たとえば、訪問介護では、一定条件のもとで「2名のヘルパーでの訪問」をOKとし、その場合の介護報酬も2倍の算定が可能となっています。

これは、厚労省告示第94号(2015年3月改定)の「訪問介護費注7の厚労大臣が定める要件」に該当するケースです。具体的には、「暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等が認められる場合」、もしくは「その他、利用者の状況等から判断して、(上記に)準ずると認められる場合」などが示されています。

複数名での訪問は、「密室性という環境の緩和」という点では一定の効果が期待できます。状況をゼロに抑えることは困難でも、少なくとも「相手側の突発的な衝動を抑制する」ことは可能で、リスクマネジメントの観点からは有効な施策の一つといえます。

問題は、「現実に(複数訪問が)可能なのか」という点です。訪問介護に携わる人材の不足感は、通所・施設系以上に深刻です。当然、複数名訪問に必要な人材確保は困難を極めます。また、2倍の報酬を算定するとなれば、保険者側が「複数名訪問が必要な理由」を厳しくチェックする可能性もあります。これも事業者側には、低からぬハードルとなります。

何より、この複数名訪問では「利用者・家族の同意を得る」ことが算定上の前提となっています。利用者・家族によるセクハラ・パワハラがあったとして、その当事者に「同意を得る」ことが現場レベルで可能なのか。事業者側に「利用者との間で波風を立てたくない」という意識が強ければ、現場が「複数名訪問」を求めても、法人上層部が首をなかなか縦に振らない状況は容易に想像できます。

利用者の選択権に「制限」をかけるためには

こうした点を考えたとき、今回厚労省が行なおうとしている調査の中で、「複数名訪問の算定に際して何が障壁となっているか」を尋ねる項目を立てることが望まれます。仮に現行の「複数名訪問」が現実的でないとするなら、その解決策や代替えとなる施策案の選択肢も、幅広く提示することも必要でしょう。

たとえば、複数名訪問を進めるなら、要件から「利用者・家族の同意」を外して「現場のヘルパーによる保険者への直接の申し立て」で可能とします。その際、「(波風を立てなくない)事業者によるヘルパーへの不当な圧力等」が生じないよう、保険者内に調査・救済のための機関を設けることも必要でしょう。

もちろん、「利用者・家族の同意」を外せば、「利用者の選択権の尊重」という原則を一部曲げることになります。これを可能とするには、制度上の「より強い原則」を新たに立てる必要があります。考えられるのは、「介護人材の権利を守る憲法」的な法律の制定です。

その中には、セクハラ・パワハラのみならず、「介護職員一人で体重◯キログラム以上の利用者の介助を行なわせてはならない(人手確保ができない場合は、介護ロボット等の導入に向けた資金援助を国の責任で実施することが必要)」といった項目も含みます。「憲法」ですから、国や行政機関が「しなければならない・してはならない」ことを明示するわけです。

こうした法律の制定こそ、国が進めようとしている「介護現場のイメージアップ」にも有効な手段となるはずです。とともに、「介護人材を守らなければ、介護保険の未来はない」という課題を(利用者を含めた)国民全体で共有する機会ともなるのではないでしょうか。

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