科学的介護とは?

  • コラム
  • 宮川明子
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機能の維持・向上を図ることのできる介護(=パフォーマンスの高い介護)を「科学的介護」と呼び、さまざまなデータをもとに適切な介護を行うという試みが進んでいます。これは、本当に適切な介護サービスを提供できるものなのでしょうか。考察していきます。

「科学的介護」は実現する?

「科学的介護」に関する論議が盛んに行われています。介護にかかる手間を数値で一元化して表現できるとされていますが、支援者と要介護者それぞれの身体の大きさや言葉にできない「相性」によって、同じ介助状態でもかかる時間は違ってくるでしょう。高齢者の心身の状態像を一人ひとり「5領域」に分けて点をつけたデータを使いますが、人によっては「5つのうち、決められた領域をまたぐ、またはどこにも当てはまらない」ということもあります。

では、100点満点として分けるのはどうでしょうか。5段階評価よりは本人の様子を表しやすいかもしれませんが、誰が評価しても同じ点がでるというわけではありません。これは「評価する」という根底が盤石なものではないといえます。

また、食事介助の内容が同じなら、どれも同じデータをもとにした介助で対応できるというわけではありません。高齢者の場合、少しずつ進んでいく機能の衰えをどうすれば抑止できるのか、考える必要があるでしょう。高齢者の場合は、「今までできたことが加齢によってできなくなったものを、改善すること」を目標にします。

障害者の場合、年齢によっても違いますが、介助は「発達段階」をクリアできるようなサービスをすることになるでしょう。「今までできなかったことができる」ことを心がけて介助します。

提供するサービスは似ていても、介助をするための基本知識や技量はまったく違います。また、ベテラン職員と新人では、かかる時間に差が出るはずです。この差が出ないようにするのも「科学的介護」の目的の一つですが、簡単なことではありません。

データ化によってより良いサービス提供が可能になる?

データをもとにサービス提供することで、サービスの質がアップするかもしれない分野もあります。以前勤めていた障害者施設では、緊急一時保護も行っていましたが、新規の方の介助も少なくありません。それでも日中は、なるべくおむつなしで過ごすことができるようにしていました。

新しく入った方には、最初は二時間おき程度にトイレ誘導し、排尿排便があったかチェックします。時間表に「排尿」「排便」「どっちもなかった」と分けて印を書き込んでいました。失禁していた場合、もう少し誘導間隔を短くします。排尿・排便間隔は、かなりはっきり把握できます。お散歩など外での失禁の可能性がある場合以外では、日中はおむつなしですごすように心がけていました。

ここで「日中」と書いたのは、これをやるために人手がかかるためです。記録をタブレットで行った場合、職員同士で「Aさん、トイレ誘導したときは失禁ありました。今日は排尿間隔短いようです。早めにトイレ誘導していきましょう」など情報共有できます。連絡をまめに取って情報共有できますが、もちろん、これで排尿回数を減らすことができるわけではありません。ただし、連絡事項として手書きの時間表を見に行く時間が省けますし、タブレットからパソコンにあるケースファイルに書き込めるので事務仕事は減らせます。

「データ化された=手間が減った」というわけではない

データ化が、そのまま手間を減らすことに繋がるとは言い切れないでしょう。なぜなら介助・看護は、その時々の本人の体調変化や機嫌などを見て、その人に合った声掛けが求められるからです。一緒に過ごしていく中で分かる「今は機嫌がよくない」「何か元気がない」という個人の様子は、数値だけで表すことは困難です。

新任でもっとも悩むのは、このあたりのことでしょう。新人職員Aが入浴嫌いのBさんに声を掛け、20分何をしても動いてくれないのに、ベテラン職員が声かけすると「はい、はい」とすぐ入浴介助を受けられる。こうしたことは多く見られます。

利用者側としては、初めて会う人に警戒心や羞恥心をもつのは当たり前。この感情は数値化することはできません。人間の心身の様子を数値化する際、それを評価するのは人間です。また、職員全体がほぼ同じ評価でなければ、データそのものが狂ってしまうでしょう。データ化できない部分が、職員にとってもっとも苦労することではないかと思います。

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