= 淑徳大学教授 結城康博 = 介護現場への外国人の受け入れ、要件設定を誤れば現場はパニックに陥る

介護サービスの現場で働く外国人を増やしていく―。そんな流れを政府が作ろうとしている。6月に閣議決定した今年度の「骨太方針」に、就労を目的とした新たな在留資格を創設すると明記。昨年11月に解禁した技能実習制度などとあわせ、受け入れを一段と加速させていく構えをみせている。今後さらに深刻化する人手不足の緩和につなげる狙いだ。この動きをどうみているか、淑徳大学・総合福祉学部の結城康博教授に語ってもらった。2回に分けて伝えていく。(聞き手・編集:Joint編集部 青木太志)


《 淑徳大学・結城教授 》

―就労目的の新たな在留資格を設ける方針が決められました。

一定の評価をしています。技能実習制度を使って多くの外国人を受け入れていく、という手法よりはずっとましでしょう。日本で働きたいと希望する人に対し、実際に仕事をしていくために必要なビザを出す―。そんなシンプルな仕組みを適用するわけですから、今よりだいぶスッキリしますよね。5年間の在留期間のうちに一定の専門性を身につけた人に、この国で長く生活していける道を開く考えも示されました。外国人にとっても選択肢の多いベターな制度と言えるのではないでしょうか。

―技能実習制度による受け入れも引き続き可能です。

私はそれにどうしても賛成できません。本音と建前が全く異なる曖昧な制度を運用していくって、やっぱりあまり良いこととは言えないでしょう。サービスの質を担保する、という観点からも問題があると言わざるを得ません。日本の介護のことを学ぶトレーニング期間があまりにも短すぎます。また、受け入れに伴うコストについても熟慮すべきではないでしょうか。1人の実習生に来て頂くためにかかる経費は決して安くありません。斡旋業者に支払う仲介手数料、日本語教育のサポート、相応の環境の整備…。何かとお金がかかります。私も色々な施設を取材しましたが、外国人1人あたり50万円から100万円を投資しているケースがほとんどでした。

―確かに少額とは言えません。

施設はコスパの問題を真剣に検討すべきではないでしょうか。技能実習制度やEPA(経済連携協定)の枠組みでは、最低でも1人50万円は必要になります。その投資が本当にベストと言えるのか? 新人職員の賃金に振り向けるなど、働く条件を他より良くすることに使う道だってあり得るはずです。多くの外国人に来てもらうとなると、日本語の教育も含めて何かと苦労も増えてくるでしょう。施設の経営方針が問われるところですよね。国全体の視点から言うと、数千人、数万人の外国人を受け入れればその分だけ経費がかかってきます。例えば年間1万人の場合。施設が1人あたり50万円を支払うとすると、総額は50億円にのぼります。その原資の大半を介護報酬が占めるわけですから、できるだけ建設的に使われるようにする配慮が欠かせません。新たな在留資格による受け入れでも、実際に現場がどれくらいの費用を投じているか注視していくべきです。

―新しい在留資格による受け入れについては、介護独自の要件をこれから検討していくことになっています。

あまりハードルを上げ過ぎないように注意しつつ、しっかりしたルールを定めなければいけません。コミュニケーションは特に大事ですから、日本語能力試験のN4程度は最低限必要でしょう。もちろん介護に関する一定の知識・技術も欠かせません。日本語ではなくその人の母国語を使ってで構わないので、初任者研修に準ずる研修を全員に受けて頂くべきです。政府は入国の際に試験を行うと言っているようですが、私は研修の方がずっと重要で不可欠だと指摘しておきたい。これらは絶対に譲ってはいけない要件です。そうでないと現場はパニックに陥るでしょう。介護のことをほとんど知らないままで日本語も分からない―。そういう方に来て頂いても、サポートにあたる職員がオーバーワークになって対応しきれません。労働環境がさらに悪化して辞める人も増えてしまい、本末転倒の結果を招くことになるでしょう。

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