自立支援に必要な「昭和の大衆文化」

福祉用具の総合メーカー・幸和製作所が、玩具・模型を手がけるバンダイとのコラボレーションによる「歩行用の杖」を開発しました。鉄人28号やマジンガーZなど、昭和を代表するロボットアニメのキャラクターボディを想起させる装飾をほどこしたものです。利用者の中には、子供の頃から昭和の多様な大衆文化にふれてきた世代も増えつつあります。そうした中での「これからの自立支援」に向けて、どのような発想が必要かを考えます。

ビートルズ、ディズニー、70歳でも真っ只中

たとえば、1960年代に世界の音楽をけん引していたビートルズ。その来日は、52年前の1966年です。当時18歳だった人は、すでに70歳となります。また、今の若い人にも大人気のディズニーアニメ、その第一作となる白雪姫が日本で公開されたのは1950年。68年前ということは、子供の頃に劇場で見ていた人の中には75歳以上の人もいるわけです。

こうした人々にとって、「楽しみ」の原点は昭和歌謡よりもビートルズナンバーであるかもしれません。白雪姫やダンボ、ピノキオといったおなじみのディズニーキャラクターに、子供の頃の思い出を重ねる人もいるでしょう。

特に、認知症の人で短期記憶は衰えても長期記憶が残っているケースの場合、「若い頃に体験した音楽や映像」が心理状態を穏やかにする効果も認められます。アメリカでは、「認知症の人が生活歴の中で個人的に親しんできた音楽」(パーソナルソング)をi-podで聞いてもらうことにより、「症状の改善を図る」ことが多くの州法で定められています。わが国の介護現場でも、こうした海外での取り組みを参考にしつつ、個別ケアの質を上げていこうという新たな工夫が進み始めています。

戦後の大衆文化と自立支援ケアの密接な関係

このように、「高齢者の嗜好」をひと括りにせず、一人ひとりの利用者の関心がどこにあるのかを検証することは、プロのケアとしては当然のことです。中でも、団塊世代をはじめとする戦後生まれの利用者は、若い頃に大衆文化が大きく多様化したという点を頭に入れることが必要でしょう。それは、(趣味・趣向を通じた)社会参加に向けて、当事者の背中を押すカギとなることは間違いありません。

しかし、現状ではいくつかの課題が立ちふさがります。何より、国が描く「自立支援」の方向性が、身体的な機能訓練を通じてのADL向上に偏向しがちであるという点です。

自立支援に欠かせない「社会参加の意欲」については、「さまざまな文化的背景の中で心に留めてきた意欲の方向性」を十分に考慮しなければなりません。ところが、その部分にかける支援スキルが「自立支援・重度化防止」の評価に結びついていないのが現状です。

そのため、個別ケアに必要なアセスメントが、「本人の外的な運動機能」に特化され、ケアマネジメントでも同様の流れが適用されようとしています。「ビートルズの音楽(特に初期のリバプールサウンド)だったら、本人が主体的に発声しリズムをとる」などという支援の方向性をケアプランやサービス計画に反映しようとしても、国や保険者から「それが介護保険の支援なのか」、「介護保険は利用者の趣味的活動を充足させるものではない」といった横やりが入ることも考えられます。

介護保険に必要なのは「豊かな文化共有」

そもそも、利用者にとって究極の社会参加となるのは、他者(若い人たちなど)に「自分が培ってきた技能や知識」を伝授し、そこで何かしらの文化を伝承することです。そして、伝承しやすいのは、そこに何かしらの「線」がつながっているケースです。

先のディズニー映画などは、新旧を通じて共有できるものは多々あるでしょう。ビートルズナンバーも、今だに若いミュージシャンなどがカバーしています。冒頭のロボットアニメなども、さまざまな形でリメイクがなされています。つまり、そこで当時者と若い専門職の間で「話が通じ合う部分」があるわけで、そのこと自体、「他者とつながれる」という生活意欲の源泉を打ち出せる要素です。

こうしたコミュニケーション機会を、利用者と若い支援者の間で設けるには、両者が心に余裕をもって接することのできる場が必要です。それを「意味のないもの」として切り捨てれば、どんなに公費を注ぎこんでも「自立支援」の効果は上がらなくなります。介護保険は、現場にたずさわるすべての人々の豊かな文化意識で成り立っている──そういう議論にもっと着目すべきではないでしょうか。

コメント[11

コメントを見るには...

このページの先頭へ