介護業界の「ダイバーシティ」を考える

政府は、6月中に「経済財政運営と改革の基本方針2018」(骨太の方針)を取りまとめる予定です。その中に、介護業界の人手不足解消に向けた「外国人人材の受入れ加速」も重点項目に盛り込まれる公算が高まっています。

人材の多様化と現場のマネジメント負担

介護現場における外国人人材の受け入れについては、17年の入管法改正などを通じ、すそ野の拡大が図られました。また、外国人人材だけでなく、高年齢者や子育て等のためにいったん介護現場を離れた人材の再入職など、多様な人材の参入をうながす施策も次々と打ち出されています。そうした人材の多様化という流れに対し、現場のマネジメントが追い付いていけるのか──これが大きな問題です。

人材の多様性という点では、近年「ダイバーシティ」という言葉をよく耳にします。ダイバーシティとは、簡単にいえば「企業組織などにおいて、多様な人材を積極的に受け入れる」こと。この場合の「多様な人材」とは、特定の性別や年齢、国籍、学歴、働き方が固定されない人材の広がりを指します。

経産省は、このダイバーシティを企業の競争力と生産性向上のカギと位置づけ、そのための検討会を開催しています。この検討会では、ダイバーシティが新たな段階に入ったとする視点から、昨年3月に「企業の具体的な取組み」にかかる報告書を取りまとめました。

経産省報告書が指摘する人材多様性の課題

この報告書では、企業の競争力と生産性の向上を上げるうえでダイバーシティ経営が不可欠であることを強調する一方、以下のような課題にも言及しています。それは、(1)現場の管理職によるマネジメントの難易度が上がり、(2)短期的にはある程度のコストをともなう一方で効果が発現するには一定の時間を要するというものです。これを乗り越えるには、企業トップによるコミットメント(積極的なかかわり)が欠かせないとしています。

ちなみに、この報告書全体を通して読んだとき、企業の競争力強化というテーマの一方で、それによって「働く人は本当に幸せになるのか」という点にはあいまいさが残ります。とはいえ、上記のような「ダイバーシティの課題」の指摘には注目する価値があります。

介護現場でも、外国人人材などを受け入れる場合、一時的に現場リーダー等にかかるマネジメント負担は増え、それにともなう人件費等(研修や業務システムにかかるコストを含む)も膨らむことは十分予想されます。

この状況をさまざまな現場リスクに結びつけないためには、トップ自らが現場課題をきちんと把握し解決に力を尽くさなければなりません。その際、トップの掲げるビジョンにブレが生じれば、現場側の動揺は大きくなり多様な人材を受け入れる余裕はなくなります。

トップである政府のコミットメントは適正?

介護現場におけるトップといえば、もちろん「法人トップ」を指すことになります。ただし、介護事業の大半が社会保険事業であり、国が定める報酬や運営基準に沿う点を考えれば、この場合の「トップ」には、行政をつかさどる政府も含まれると考えるのが妥当です。

そのうえで政府が進める施策を見ると、トップとしてのあり方が適切なのかが問われます。たとえば、今年3月に示された「外国人介護人材の受入れの考え方」では、依然として「人材不足への対応ではない」ことを強調しています。仮に「骨太の方針」で外国人人材の受入れ加速を「人材不足の解消策」と明確に位置づけるなら、上記の厚労省側の見解との整合性を図る必要があります。これがなされないとトップにブレが生じるわけで、ダイバーシティの考え方と相いれなくなります。

さらに、現場リーダーのマネジメント負担が増えることを想定すれば、そこで生じる必要なコストを見込んだうえで、相応の予算措置を図ることが必要でしょう。なお、先の経産省の報告書では、ダイバーシティを成功させるうえで株主等のステークホルダー(利害関係者)への情報開示と、フィードバックをきちんと受けることの重要性にもふれています。社会保険事業の場合、株主にあたるのは保険料を負担する被保険者であり、その意見をまず聞くというしくみも欠かせません。

こうして見ると、外国人人材の受入れをはじめとする「人材の多様性」の導入には、発案する政府側にもさまざまな責務がともないます。その覚悟を持った施策と位置づけることができるのか。同じ行政機関である経産省の報告書との間で乖離が生じていないか。そのあたりから検証することが求められます。

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