医療法人の介護進出と看護職確保

日本看護協会が、厚労省に「訪問看護体制の推進」などを求める要望書を提出しました。その中では、介護施設等で働く看護職の安定的な確保に向けた賃金処遇改善の必要性にもふれられています。介護現場における看護職の処遇をどう考えればいいのか。介護保険が歩みつつある道筋と絡めて掘り下げます。

介護サービスへの医療の関与が強まる中で

2015年度、そして今回の18年度介護報酬・基準改定の軸の一つとなっているのが、「地域包括ケアシステムの強化にともなう中重度者対応への重点化」です。この場合の中重度者とは、言うまでもなく一定の療養ニーズがある利用者が主に対象となります。

その背景として、利用者の高齢化はもとより、医療の提供体制が大きく再編されつつあることも着目しなければなりません。急性期医療の高度化にともなう将来的な医療費の高騰をにらんだとき、診療報酬によって患者の療養期をまかなう範囲はますます限られていきます。受け皿の一つとして介護保険がまかなう「療養ニーズ」の範囲はどんどん広がり、それが上記の重点化策を生み出しています。

その重点化策の中では、介護と医療の連携体制が欠かせないわけですが、実際には「医師の指示」が重要なカギとなるしくみがどんどん大きくなっています。リハビリ・マネジメント加算しかり、特養の(配置医師と協力医療機関との連携も要件となる)配置医師緊急時対応加算しかり。そして、ケアマネも平時からの対医療連携や末期がん利用者のターミナル期における医師からの指示が、ケアマネジメント上でも比重を増していきます。

「特別な関係」にかかる診療側の評価拡大

こうした状況で将来的に何が予想されるかといえば、医師側が「円滑に指示を出せるような体制」を求めることです。そうした中では、医療法人自らが(あるいは親族等による法人によって)介護サービス運営へと乗り出すケースがさらに増えることも予想されます。

たとえば、今回の診療報酬改定では、医療機関等と訪問看護ステーションが「特別な関係」(両者が同一法人であったり、代表者が親族関係にあるなど)であった場合でも、退院・退所時の共同指導が報酬上で評価されることになりました。その訪問看護ステーションが「強化型」で居宅介護支援事業所などを併設していれば、ほぼ内部連携に近い形で医師とケアマネのやりとりなども可能になります。

また、医療外付け型の介護付有料老人ホームにかかる基準や、有床診療所から看護小規模多機能型への参入要件などが緩和されています(その有床診療所が地域の大規模医療法人と「特別な関係」という状況も増えてくるかもしれません)。こうした「医療法人等の介護サービス参入をうながす規制緩和」などは、3年後・6年後の介護報酬の改定でさらに進んでいくことも考えられるでしょう。

他法人は危機感をもった予測と対策を

医療法人による介護サービス運営の比重が拡大すれば、「介護現場に勤める看護師」の所属が、医療法人であるというケースも増えてきます。もっと言えば、看護職の中で「一定規模以上の医療法人に勤めた方が、(将来的な異動も含めて)処遇がいいのでは」という思考が強まるかもしれません。「介護現場に勤めたい」という意志と「医療法人の方が処遇がよい」という観測が、医療法人のサービス参入の拡大で両立しやすくなってくるからです。

実際、今回、日看協が示したデータでは「介護施設等で働く看護師と病院で働く看護職」の給与格差が明らかです。医療法人の介護サービス進出が拡大すれば、「そこに勤めればこの格差は埋まるのではないか」という考え方が出てくるのも自然なことと言えます。

そうなった場合、問題はシェアが縮小していく他法人です。今まで以上に看護職の採用が難しくなり、看護職配置等の強化を要件とするような加算は取りにくくなり、医療法人との経営的な格差がますます広がります。看護職にかける人件費を拡大すれば、今度は介護職の処遇にも影響が及んできます。

以上の点を考えたとき、医療法人以外(社会福祉法人や営利法人、NPO法人などの側)こそ、看護職確保に向けた要望・提言の作成に危機感をもって力を入れるべきではないでしょうか。たとえば、医療法人と「特別な関係」にある訪問看護ステーションなどは、地域の医療以外の法人との連携を一定以上必要とするといった基準改定などが考えられます。

看護職の処遇改善も大切な課題ではありますが、介護サービス全体における法人のあり方にも着目しておきたいものです。

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