意思決定GL、浸透に向けた課題

厚労省より「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定ガイドライン(案)」が示され、5月21日までパブリックコメント募集が行われています。ケアマネなど認知症の人の意思決定にかかわる専門職が、本人の意思をていねいにくみ取れるよう、その標準的なプロセスや留意点が示されています。

今回の意思決定GLの位置づけを整理する

今回のガイドラインは、本人の視点に立った日常生活上の意思決定のプロセスを整理したものです。そのため、ケアにかかわる専門職種や行政職員などにとどまらない幅広い人々まで「支援者」と位置づけています。たとえば、家族、成年後見人、地域近隣において見守り活動を行なう人、そして「本人と接し本人をよく知る人」なども含まれます。

したがって、標準的なガイドラインというよりは、意思決定支援にかかる社会全体の基本的な考え方を示したものと受け取ることが必要でしょう。巻末にはテーマ別の事例が5つ示されていますが、専門職による支援実務をカバーするうえでは限定的です。あくまで、現場支援者が「普段行なっている支援」について、本人の意思決定を最大限尊重したものになっているかを振り返る際の「一つの基準」としてとらえた方がいいかもしれません。

また、本ガイドラインは「本人の意思決定能力が欠けている場合の、いわゆる『代理代行決定』のルールを示すものではない」としています。プロの実務者にとっては、「代理代行決定ルールこそが知りたい」となりがちですが、その点では本ガイドラインの位置づけを誤解しないことが必要でしょう。

専門職がぶつかりがちな「現実」に注意

そうした前提を頭に入れたうえで本ガイドラインを見ると、意思決定プロセスを実践するには、それなりの時間と(環境面等への)配慮が必要である旨が随所に示されています。

たとえば、「本人が意思を表明することの支援(意思表明支援)」として、以下のように示されています。「本人の意思を表明しにくくする要因はないか。その際には(中略)意思決定支援者の態度、人的・物的環境の整備に配慮が必要である」、「本人と時間をかけてコミュニケーションを取ることが重要であり、決断を迫るあまり、本人を焦らせるようなことは避けなければならない」という具合です。

専門職にとっては、基本中の基本ということになるかもしれません。問題は、「その余裕がなかなかとれない」という現実に専門職は常にぶつかりがちだということです。

ちなみに、巻末事例では、以下のようなケースが示されています。(1)本人が自宅の清掃を十分にできなくなっていることに(遠方で暮らす家族が)困っていた、(2)包括が介入してヘルパーによる室内清掃を提案、(3)当初、本人は他人が家に上がることに抵抗があった、(4)しかし、「お試し」は納得したので、数回ヘルパー利用を試した、(5)すると「親切な人で安心した」とヘルパー導入を受け入れた。

国が定める報酬・基準はGLに沿っている?

恐らく現場従事者としては、「(3)の抵抗が強く『お試し』につながらない場合はどうしたらいいのか」という点が気になるのではないでしょうか。訪問介護では、初期段階で何度も「入室拒否」を受け、家族と同行して縁側から声をかけたり、時間をおいて繰り返し足を運ぶなどいろいろなケースを聞きます。

時には、入室を許されても、最初のうちは短時間で「帰ってほしい」などと言われ、本人との信頼関係が築けるまでどうしても頻回訪問にならざるを得ないこともあります。今改定で生活援助の頻回訪問のチェックが厳しくなりました。ここで、ケアプラン点検を行なう保険者の理解が乏しいと、先のようなケースでの「初期段階のていねいな対応」は排除されてしまう懸念も高まりかねません。

この点を考えれば、「現場の支援者が配慮すべきプロセス」を規定するという以前に、従事者が所属する法人や管轄する保険者の認識を改めることを主目的としたガイドラインも必要ではないでしょうか。さらに踏み込めば、国が定める基準や報酬が今回のようなガイドラインの達成を妨げるものになっていないかをチェックするしくみも求められるでしょう。

先の事例を見ても、現場で起こっている実情とのすり合わせに苦労している様子が浮かびます。このにじみ出ている矛盾を解消する作業を継続させないと、せっかくのガイドラインも現場従事者にはしっかり届いていきません。本人の意思決定プロセスが重要なことは皆分かっているわけで、それを阻んでいるものにもスポットを当てる必要があります。

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