AIによる認知症ケアを機能させるには

AIによる、科学的裏付けに立ったケアの推進がたびたび話題となっています。認知症ケアについても、AIを活用したデータ解析や利活用を図るなどの事業が提示されるようになりました(4月2日のニュースより)。

BPSDの改善に向けてAIを活かす余地

認知症については、中核症状の根治に向けた治療法はまだ確立されていません。したがって、介護現場においては、BPSD(行動・心理症状)の緩和により、たとえ中核症状が進行しても「その人らしい穏やかな生活」を取り戻すことが主たるミッションとなります。

では、BPSDを悪化させる要因には何があり、各要因を解決するための効果的なケアの道筋はどうなっているのでしょうか。この部分におけるデータ集積と解析にこそ、AIを大いに活かす余地があるといえるでしょう。

そもそもBPSDを悪化させる要因は、周囲の環境、家族や支援者との対人関係、本人の疾病や服薬の状況など極めて幅広い要素が複合的に絡んでいます。ここに、本人がもともと携えている価値観や生活観、それらを生み出している長期記憶内の生活歴、現段階における見当識の状況などが、いかに影響を与えているかにも着目しなければなりません。

個人の経験値を共有価値へと進化させる

まさに複雑系の極みといえる課題に対し、「人」の力だけでケアの手法を体系化するのは限界があります。仮に「効果的なケア」が実践できたとしても、個人の経験的な技能に頼らざるをえない傾向があります。

結局、組織や業界におけるケアの底上げを普遍的に行なうには、地道なOJTなどを通じて各個人の経験値を上げるというのが常套手段となります。つまり、それだけの余裕が現場にあるかどうかが問われ、組織のあり方や人員配置の規模も大きく影響するわけです。

この複雑系の部分に「AI」を効果的に投入することができれば、個々の職員の経験値にかかわらず、一定の技能を共有しやすくなります。たとえば、現場でそのつど累積された情報(利用者のアセスメント、モニタリングの情報など)をAIが解析し、「ケアに際して配慮・注意すべき点」を導き出してくれるとするなら、リーダーや管理者による助言や指導もかなり効率化することができるでしょう。

ただし、ここで注意すべき課題があります。先に述べたように、本人のBPSDを左右する要素として、「支援者等との人間関係」も大きなポイントとなります。そこには、支援者側の内的な要素(心身の状況や感情コントロールなど)も当然かかわってきます。

たとえば、家族の介護疲れが蓄積することで、家族自身が無意識のうちに本人に対する言動がきつくなり、それが本人のBPSDに影響を与えることがあります。そのため、家族の介護疲れの解消(レスパイト)は、認知症ケアに際して(間接的に)欠かせない支援として位置づけられているわけです。

国が定める基準・報酬もAI解析が必要に?

同様のことは、プロである介護・医療関係者にも言えるでしょう。スタッフ自身の体調不良やストレスの蓄積、感情コントロールの不備などは、認知症ケアを適切に進めるうえでは意識的に解消を図らなければなりません。しかし、職員個人の心構えや取組みだけでは限界があります。職員が心身ともに健全な状態で利用者と向かい合えるようにするには、組織としての労務管理の拡充も不可欠となります。

このあたりについては、AI開発側も想定しているはずです。つまり、必要な認知症ケアの解析を行なう中で、「現場職員への組織的なケアの状況」もきちんと織り込む必要があるということです。さらに言えば、国が定める人員基準や報酬のあり方が、適切な認知症ケアを維持できる水準になっているのかどうかもAIが解析すべき課題となるはずです。

「そこまで解析しなくても、現場負担を軽減できる」という意見もあるでしょう。しかし、AIを適切に機能させるには、関連データをまんべんなく集積できるかどうかがカギとなります。少なくとも、職員の業務環境が適切かどうかは欠かせないデータとなるはずで、その部分がすっぽり抜け落ちてしまっては解析に必要な材料が揃うべくもありません。

この点を考えたとき、AI開発側としては、そのAIを適切に機能させるうえで随時の政策提言を同時に行なっていくことが必要ではないでしょうか。せっかくのAI技術を100%機能させるのに、どのようなサポートが必要なのかをしっかり考える必要があります。

コメント[16

コメントを見るには...

このページの先頭へ