【結城康博】「新研修で生活援助の担い手は集まらない。税金と労力の無駄遣い」

来年度の介護報酬改定をめぐる論争で最大の焦点となった生活援助。必ずしも必要のないサービスまで提供されているのではないか―。事業所の利益率は相対的に高い水準を維持している―。財務省などがそう適正化を迫ったのに対し、業界は「人手不足に拍車がかかる」などと強く反発。「介護離職ゼロ」を謳う政府の姿勢が問われた。

結論は微減。基本報酬を2単位だけ引き下げることで決着した。厚生労働省は担い手の確保につなげるための施策も立案。既存の「初任者研修」より短い時間(59時間)で済む専用の研修を新設することに決めた。

これをどう評価すればいいのか? 淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授は、「生活援助を軽んじるのは完全な失策」と厳しく断じている。詳しく語ってもらった。(聞き手・編集 Joint編集部 青木太志)


《 淑徳大・結城教授 》

―最終的に2単位減となりました。

今回は全体の改定率がプラスだったため、ほとんどのサービスの基本報酬は引き上げか据え置きとされました。そうした状況下での狙い撃ちの引き下げ。非常に冷たいと言わざるを得ません。生活援助の重要性を勘案すれば、大幅な引き上げでも全くおかしくないと思います。最低でも身体介護と同程度の引き上げは実現して頂きたかった。

―なんとか2単位減だけで済んだ、最悪の事態だけは回避できた、という安堵の声もあります。

いやいや。これまでずっと悪者にされ続けてきたんですよ。とてもそうは受けとめられません。経年的にみてください。2005年度までは1時間以上が291単位で、以後30分ごとに83単位の上乗せがありました。それが今では45分以上がすべて一律。来年度からは223単位です。利用者と一緒に家事を行ってじっくり自立を支援する余裕は持てません。これまで何度も繰り返し引き下げられてきたんです。サービスの質の向上や人材の確保なんてよく言えるな、と思います。

―不必要なサービスが行われているのではないか、家政婦のように使われ自立支援につながっていないのではないか、という指摘が繰り返されてきました。

そういった側面も実際にあることは否めません。ただし、問題はサービス提供サイドの構造にあると捉えるべきでしょう。民間の事業者が非常に多く参入してきましたので、利益第一の運営や利用者の奪い合いが半ば当たり前になっています。利用者の希望通り家政婦の役割に徹した方がメリットが大きい、と考えるところも少なくないでしょう。サービス提供責任者やケアマネジャーもその中で苦しみ、本来の職能を必ずしも十分に発揮できていません。国には是非、そうした根本の原因と向き合う議論をして頂きたかった。

―議論の筋が違う?

無駄が多い=あまり必要ない、というロジックは間違いです。生活援助は在宅介護を推進するうえで非常に大事。地域包括ケアシステムの成功に欠かせない構成要素です。今後のことを考えると、もっともっとサービスの基盤を強化していかなければなりません。それなのに国は、根本の構造問題を脇において安易な給付の抑制ばかり行っています。完全な失策だと言わざるを得ません。医療と介護の連携や機能訓練も大切ですが、利用者の日々の生活を支える生活援助も同様に大切でしょう。本来は車の両輪のはずなのに、どういうわけか片一方だけがひどく軽視されています。高齢者に寄り添って在宅生活の継続を下支えしているのは誰ですか? 現場の方ならヘルパーだとすぐに分かるはずです。もっとちゃんと評価しなければいけません。

―現場にはどんな影響が出てくるでしょう?

向こう10年で存続が難しくなる事業所は少なくない―。私はそうみています。ヘルパー全体に占める60歳以上の割合がおよそ3割で、その後継者が満足に育っていないためです。このままではサービスの供給量は先細りとなるでしょう。それが狙いなら別ですが、ニーズがどんどん高まるので政策の転換が欠かせないと思います。

―59時間の新研修が始まります。

研修の時間を短くすれば担い手が集まってくるのか……。そううまくはいかないでしょう。最近、ショッピングモールやスーパー、コンビニ、飲食店などのパートの時給が上がってきていますよね。研修を受けて生活援助に入るメリットは、以前よりさらに小さくなってしまいました。人手不足で競争が激しさを増すなか、多くの人材を継続的につなぎ留めておくだけの魅力があるとは思えません。審議会の議論をみましたが、他産業の賃金動向と比較してどうかという視点が欠けていました。井の中の蛙、と言われても仕方ないですよね。

―狙った効果は出ない?

新しい総合事業の担い手を育てる研修だって、これまでのところ十分に受講者が集まっていません。もちろん、この分野に関心を持った人は来てくれるでしょう。ただ本来、そういう人には初任者研修を修了してもらうべきだと考えます。59時間も受けるんですから、本人ももうちょっと頑張った方が得だと感じるでしょう。新研修の創設ははっきり言って税金と労力の無駄遣い。十分な成果を得られないどころか、ヘルパーの価値をさらに低下させてしまうだけでしょう。もっと他のことにリソースを割いて頂きたかった。

―他のこと?

色々と研修を林立させるのはやめて、より多くの人が初任者研修を受けられる環境を用意すべきです。例えば受講費の補助。自己負担が生じないようにお金を出せば、「やってみよう」という人が増えるのではないでしょうか。掃除や洗濯、買い物って言うとなんだか簡単そうに聞こえますけど、複雑なニーズを併せ持つ困難事例や認知症のケアに関わることも少なくありません。やはり一定のスキルが不可欠です。なるべく多くの高齢者に在宅で長く暮らして頂く、というのが国の方針ですよね? 生活援助を軽んじるのはもうやめた方がいい、と思うのは私だけでしょうか。

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