介護事故防止は今や最優先課題に

厚労大臣は、1月5日の記者会見で「介護保険施設および有料老人ホームにおける介護事故についての実態把握を進める」旨を示しました。利用者の重度化や現場の深刻な人手不足が進む中、介護事故をいかに防ぐかはますます重要な課題となっています。

重大事故は「氷山の一角」の認識はあるか

介護事故にかかる実態調査としては、現場からの事故報告書などをもとに自治体が独自に公表しているもののほか、2000年に国民生活センターがまとめた「介護事故の実態と未然防止に関する調査研究」(調査実施は制度開始前の1999年)が見られます。直近での詳細なものとしては、2008年度と2011年度に、厚労省の老人保健健康増進等事業として公表された民間シンクタンクによる調査研究があります。

しかしながら、国の主導によって全国規模で行なわれた調査はまだありません。医療分野における事故およびヒヤリハットにかかる情報収集・調査分析と比べた場合、国レベルでの介護事故の実態把握はまだ道半ばなのが現状です。その点で、今回厚労大臣が実態把握の意思を表明したこと自体は評価できます。

問題は、現場における介護事故リスクの深刻度について、国がどこまで真剣にとらえているのかという点です。大臣会見では、「(有料老人ホームにおける)入居者の死亡事件」を一つの契機としています。しかし、大切なのは、「それは氷山の一角であり、死亡事故につながりかねないリスクは現在の介護現場に蔓延している」という認識でしょう。

これからは在宅系の事故リスクも急増する!?

リスクマネジメントでよく取り上げられる「ハインリッヒの法則」によれば、1件の重大事故(たとえば死亡事故)の背景には、29件の軽微な事故が発生しているとされます。さらに、その背景には300件近いヒヤリハット事例が存在しているとも言われます。

この点を考えた場合、(死亡事故などの)重大事例だけを対象とした調査・分析だけでは、現場不安の根絶には不十分といえます。また、制度開始時よりもサービスが多様化している現在では、介護保険施設や有料老人ホーム(あるいはその他の居住系)だけを対象とした実態把握でいいのかという点も問われます。

国は地域包括ケアシステムによって、在宅介護・療養の限界点を高める方針を打ち出しています。その点に照らせば、在宅系サービスまで実態把握の範囲を広げることが欠かせないはずです。たとえば、お泊りデイなど「通所事業所でも夜間介護上のリスクが生じるケース」もあります。今後、訪問介護で「混合介護」が緩和されたり、次期改定での人員基準緩和が進めば、複雑化するサービス体系の中で(ちょっとした連携ミスなどによる)事故リスクの増大も想定しなければなりません。

事故防止が進まないと自立支援施策も厳しく

確かに、「最初からそこまで規模を広げれば、調査にかかる財政負担も大きくなるので非現実的」という見方もあるかもしれません。しかし、自立支援にかかるデータベースの構築や自治体への多額のインセンティブ交付金を打ち出している点を考えれば、「介護事故調査にかかる財政負担が重荷となる」という理屈は矛盾するのではないでしょうか。なぜなら、事故によって利用者の心身に重大な影響が及べば、それはそのまま「自立支援・重度化防止」に逆行することになるからです。

自立支援と介護事故防止は、まさに車の両輪であるという考え方が自然であり、両者をきちんとリンクさせることが、結局は利用者の生活の質の向上に結びつくことになります。つまり、ADL向上に特化しがちな自立支援策に「介護事故防止の理念」をプラスすることで、本来の介護保険の理念(利用者の尊厳保持の実現)に近づけることができるわけです。

また、厚労省は介護職のイメージ刷新を進めようとしていますが、そこには処遇改善はもちろんのこと、「安心して従事できる環境整備」が欠かせません。その一つは、「利用者の安全確保のために強い緊張感の持続が必要となる環境」を改善することがあります。その点で、介護事故防止に向けた取組みは、現場の人材確保とやはりセットになるわけです。

以上の点を考慮すれば、利用者と職員の安全・安心確保に向けた介護事故防止策は、極めて優先度の高い施策と位置づけられるべきです。その際には、介護施策全体の組み換えも必要になるかもしれません。しかし、次期改定等で現場環境がさらに厳しくなる中、施策側にそれだけの覚悟が必要になっているのが現実です。この点を忘れてはなりません。

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