未実施減算強化で拘束廃止は進むか?

11月15日の介護給費分科会では、特養ホームの改定の方向性が示されました。その中で、身体拘束廃止未実施減算(以下、未実施減算)のあり方について見直し案が提示されています(他の介護保険施設、GH、特定施設にも適用)。介護保険スタート時、運営基準で「原則身体拘束禁止」が規定されてから17年、新たな未実施減算は効果をもたらすのでしょうか。

現行の未実施減算の要件を改めて確認する

改定の方向性についてはニュースを参照していただくとして、現行の規定を改めて確認しましょう。介護保険の規定では、「緊急やむを得ない」ケースを除いて身体拘束は禁止されており、実施する場合には「緊急やむを得ない」理由を記録しなければなりません。この記録がないと、身体拘束廃止未実施減算(現行で1日あたり5単位)が適用されます。

上記「緊急やむを得ない」に該当するのは、以下の3要件をすべて満たす場合です。(1)切迫性(利用者本人または他の利用者の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高い場合)、(2)非代替性(身体拘束以外に代替する介護方法がないこと)、(3)一時性(身体拘束は一時的なものであること)となります。

そして、上記の判断については、担当する職員個人やチームで行なうのではなく、施設全体で判断することが必要です。さらに、身体拘束の内容、目的、時間、期間などを利用者本人や家族に対して十分に説明し、理解を求めることも必要とされています。

直近の調査から見えてくる現場の進化と課題

上記のしくみが17年間適用されてきた中、現場における身体拘束の状況はどうなっているのでしょうか。身体拘束の取組み等にかかる直近の調査としては、2015年3月に全国抑制廃止研究会が公表したもの(*)があります(厚労省の老人保健健康増進等事業)。

これによると、特養ホームの身体拘束率(施設利用者に対する拘束者数の割合)は1.5%(老人保健施設2.1%、GH1.8%)となっています。ちなみに、2005年の調査(こちらは1週間の全利用者数に対する拘束者の拘束日数の割合)では、特養ホームの拘束率は4.5%(老健4.3%)。計算式がやや異なるので一概に比較できませんが、10年間で特養ホームの身体拘束は大きく減少傾向を示しています。

また、「直近3年間で身体拘束廃止の取組みはどうなったか」を尋ねた質問では、特養ホームでは「拘束は0で変わらない(49.0%)」「取組みは進み、拘束数は減った(41.9%)」という回答の合計が約9割に達しています。このように、介護現場での身体拘束廃止の取組みは着実に進んでいることがわかります。

その一方で、特養ホームにおいて「その3年間でBPSDのある利用者が増えている」「医療処置を必要とする利用者が増えている」という回答は、ともに6割を超えています。そして、「現在の看護・介護職員配置で、身体拘束を廃止するために十分な人数であると思われるか」という質問では、「やや不足」「不十分」の合計もやはり6割を超えています。

介護現場だけに負荷をかけても限界あり?

こうして見ると、身体拘束廃止に向けた現場スキルは向上しているものの、環境要因的には決して楽観できる状況でないことがわかります。厚労省が進めようとしている「身体拘束の適正化」も、こうした事情を見すえたうえでの一種の手綱締めなのかもしれません。

しかし、環境要因にともなって「現場がぎりぎりの状況になっている」というのは、もはや構造的問題といえます。そうした中で、規定の強化やディスインセンティブの拡充だけを図っても効果は限定されかねません。

そもそも環境要因の一つには、利用者の入退院あるいは急性期から間もない入所者の増加という中で、医療機関において「BPSDが悪化する」あるいは「利用者に医療処置がほどこされた状態で介護現場との情報連携等が追いつかない」という状況もあります。

この点を考えたとき、医療機関内でのケアのあり方も前提として問われなければならないでしょう。また、医療機関からの利用者受け入れに際して、介護側の「身体拘束をしないようにするための準備」に対してインセンティブを手厚くする必要もあるはずです。

身体拘束を廃止し、高齢者の人権を守るというしくみづくりは、社会全体で担うべき課題です。介護現場だけに単発的に負荷をかけるだけでは、真の解決は望めません。


介護保険関連施設等の身体拘束廃止の追跡調査及び身体拘束廃止の取組や意識等に関する調査研究事業報告書 特定非営利活動法人 全国抑制廃止研究会(PDF)

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