インセンティブに潜む「暴走」の懸念

今年5月に「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」が成立したのを受け、市町村の介護保険担当課長を招集しての会議が行われました。ポイントとなったのは、介護保険事業計画に位置づけられた目標達成に対して、財政的インセンティブが付与されるという件についてです。

介護給付費の適正化にも目標設定を義務づけ

今改正での介護保険事業計画にかかる内容を、改めて整理しましょう。同計画中に新たに定めることが義務づけられたのは、以下の事項にかかる施策と目標です。具体的には、(1)地域の高齢者の自立した日常生活の支援、(2)要介護状態等となることの予防(または、要介護状態等の軽減・悪化の防止)、(3)介護給付費等の適正化に関する事項となっています。

クローズアップされがちなのは(1)と(2)ですが、ここでは(3)に着目します。これまで、介護給付費等の適正化に関する事業については地域支援事業の一環として行われてきました。今改正は、この事業を介護保険事業計画の項目として法的に位置づけたことになります。

すでに、介護給付費等の適正化については、厚労省より主要5事業が示されて全国の保険者での取り組みが進んでいます。各内容は、(1)認定調査状況チェック、(2)ケアプラン点検、(3)住宅改修等の点検、(4)医療情報等との突合せ等、(5)介護給付費通知となっています。この5事業を中心として、市町村ごとに目標を定めることが義務づけられたわけです。

「適正なサービス利用の阻害」を生まないか

さて、介護保険事業計画の目標達成に向けた指標づくりは難航していますが、これは(3)についても当然かかわってくることです。主要5事業の中身はすでに示されているので、プロセス指標は、「これらを着実に実施する」ことが目指されることになるでしょう。

問題は、(1)(2)と同様、アウトカム(成果)指標です。厚労省は「適切なサービス利用の阻害につながらないこと」を前提としていますが、(1)(2)はともかく、(3)は「給付の無駄を適正化する」ことに力点が置かれた施策です。この点を考えれば、「本当に適切なサービス利用の阻害につながらないか」という点について、さらに慎重な検討が必要でしょう。

たとえば、5事業のうち、比較的実施率が低いものに「介護給付費通知」があります。これは、保険者から受給者に対して、介護報酬の請求および費用の給付状況等について通知するものです。つまり、受給者に対して「本人が使っているサービスはどれだけの費用がかかっているのか」を周知し、それによって「受けているサービスが適正かどうか」を自己認識してもらう効果を狙ったわけです。

なぜ実施率が低いのかという点については、自治体評価で「郵送料の予算確保が難しいうえに、(利用者の意識づけが図られたかどうかについて)効果を測定する手段がない」という分析が目立ちます。また、ある自治体からは、「請求書と勘違いして不安に感じる高齢者が多い」という声もあがっています。

利用者視点による適切なハンドル操作が必要

現状でこうした声がある中、アウトカム指標の設定を強行に推し進めれば、利用者側に「さらなる混乱」をおよぼさないかという懸念が生じてきます。つまり、上記の介護給付費通知における文言の使い方がエスカレートすることにより、利用者側のサービス利用にかかる過剰な萎縮が生まれかねないわけです。

要介護者やその家族は、ただでさえ先の見えにくい状況の中で、マイナス思考が生じやすくなっています。そのマイナス思考を助長しかねない施策強化がなされれば、自立意欲の低下から重度化防止に逆行しかねません。家族も「結局、自分が介護に深くかかわらなければ」という考えに追い込まれれば、介護離職ゼロにも黄信号がともることになります。

インセンティブというのは、施策を加速させるエンジンにはなるでしょうが、ハンドル操作が追いつかなくなると「暴走」するリスクもはらみます。ちなみに、厚労省は、介護保険事業計画の作成委員会メンバーに利用者や家族を含めることを求めています。この原点に立って、介護給付費適正化についてもまずは利用者の意見を聞き、ハンドル操作を万全なものとすることが必要でしょう。

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