2016年の認知症行方不明者急増の背景

警察庁が発表した2016年の「行方不明者の状況」によれば、認知症(またはその疑いを原因とするケースが1万5,432人、対前年比で約3,200人増となっています。ここ数年右肩上がりが続く中、この1年での増加が特に目立ちます。背景には何があるのでしょうか。

人口の高齢化という中長期的要因はあるが…

この統計での「行方不明者」とは、警察に行方不明者届けが受理された人の数をいいます。また、その後に所在確認がなされたケース(発見、帰宅等確認、届出の解消のほか、死亡確認など)も含みます。ちなみに、所在確認ケースは全体で約98%にのぼります。

では、そうした「行方不明者」の中で、認知症が原因というケースが増えている背景は何でしょうか。すぐに思いつくのは、人口の高齢化とともに認知症の人が増えているという中長期的な事情です。厚労省の国民生活基礎調査でも、要介護者うち80歳以上の人の割合が過去最大となり、介護が必要となった原因も「認知症」が初めて1位となりました。

こうした状況から、2012年以降の(認知症行方不明者)の右肩上がりはある程度分析できます。問題は2015年から2016年にかけての急増です。たとえば、2018年度から全市町村で義務化される認知症総合支援事業の一環として、認知症の人を対象とした見守りネットワークが整備されてきた事情もあるでしょう。

地域によってしくみは多様ですが、警察などがネットワークにかかわり、いったん本人が行方不明になると「家族→地域ネットワーク→警察」という情報共有が瞬時に行われるケースもあります。認知症の人が「一人で外に出た」などという場合、初動で家族や介護現場が動いて探したとして、そこですぐに発見できれば警察への通報は必要ありません。これに対し、初動から地域ネットワークがかかわり、そこに警察機関が加わっていれば、多様な機関を巻き込んでの情報共有が早期から行われます。こうしたしくみの普及が、統計の数字を押し上げた可能性もあるわけです。

2015年度の制度・報酬の見直しとの関係は?

これはあくまで「多機関ネットワークの構築」というポジティブな仮説です。一方でネガティブな要因が数字を押し上げたという可能性にも注意が必要です。要因となりえる2015~2016年の環境変化といえば、言うまでもなく利用者負担増等の制度改正、および人手不足の中でマイナスとなった報酬改定です。

たとえば、サービスの利用控えが家族の介護負担を増やせば、認知症の本人への見守りも限界が生じやすくなります。また、家族の介護疲れは本人への言動を無意識にきつくすることもあり、不穏状態を強める懸念も出てきます。その流れの中で、本人が「一人で外に出ていく」という衝動も高まるわけです。

一方、基本報酬の大幅なマイナスは、経営の立場から「基準ぎりぎりの人員配置」を余儀なくさせる力が強まります。人員に余裕があれば、職員も利用者への見守りがしやすくなり、仮に「一人で外に出ていく」という行動をとっても、早期に気づいて「本人に付き添って同行する」ことも徹底できるでしょう。その余裕が現場で失われているとすれば、利用者がいなくなったことに気づかないなどというリスクも全体的に高まることになります。

給付費分科会でも論点化する必要があるはず

2016年の行方不明者急増の背景に、上記のどちらの要因があるのかは、家族とケアの現場にかかる詳細な分析が必要でしょう。しかし、あくまで現場に接した実感として、2015年度の報酬改定以降、「職員が利用者とじっくり接する余裕がなくなっている」状況は徐々に高まっています。ただでさえ、職員の余裕の無さは利用者に伝わり、それだけでも「その場に居ることへの違和感」を強めやすいものです(つまり、「ここは自分の居る場所ではない」として「出ていく」衝動を高めるわけです)。

今回の統計は警察庁によるものですが、厚労省としても「なぜ2016年に行方不明者が急増したのか」を改めて分析する必要があるでしょう。そのうえで、分析結果を介護給付費分科会に提示し、認知症ケアをめぐる基準・報酬のあり方に活かすことが急務といえます。

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