今の特養はサバイバルゲーム。福祉どころじゃない。介護業界がこれでいいのか?

あれは本当に正しい判断だったのだろうか? そんな疑問の声が以前にも増して強くなってきた。特別養護老人ホームの話だ。介護施設の中で最も広く知られており、相対的に安い料金で最期まで充実したサービスを受けられるため人気も高い。

国が改革を断行したのは2015年4月。入所できる高齢者が原則として要介護3以上に限定され、要介護2以下はやむを得ない場合の特例と扱われるようになった。在宅での生活が困難な重度者を支える機能を強化するため――。厚生労働省は狙いをそう説明してきた。

一方で、要介護度の軽い高齢者が特養への入所を希望するケースは少なくない。厚労省の最新のレポートによると、全国の要介護1と要介護2の待機者はおよそ7万人にのぼっている。認知症の症状が悪化していたり、生活を支える家族が誰もいなかったりして、逼迫した状況にある人も珍しくないという。民間のシンクタンクが国から委託を受けて昨年度に実施した調査でも、入所の制限を考え直すよう求める意見が多く寄せられていた。個々の事情を勘案せずに冷たくあしらう「門前払い」も起きている――。そんな指摘も盛んになってきた。

日本の「終の棲家」で何が起きているのか? 社会福祉士やケアマネジャーとして現場を支え、特養の設立や経営にも長く関わってきた東洋大学ライフデザイン学部の早坂聡久准教授に聞いた。「キープレイヤーの変化」と「サバイバルゲーム」。浮かび上がった重要なファクターはこの2つだ。そもそもの理念とは大きくかけ離れてしまったのではないか――。現状をそう疑問視する早坂准教授は、舵取りの方向を修正すべき時だと呼びかけている。(聞き手・編集 Joint編集部 青木太志)


《 東洋大ライフデザイン学部 早坂准教授 》

「施設には断らざるをえない事情がある」

-特養の入所者が原則として要介護3以上に限定されたことをどうみているか聞かせてください。

乱暴で間違った判断だったのではないか。私は正直そう思っています。以前から介護報酬による誘導は行われていましたよね。要介護度の軽い高齢者を多く受け入れていると、なかなか経営が安定しない設定になっていたんです。そうした方策をとってきた国が、すでに入所者の多くは重度者だから要介護2以下を除外しても大きな変化は生じない、と説明していました。どこかおかしいですよね。要介護2でも充実した支援を必要とする人は実際にいます。認知症を抱えているなら暮らしは特に大変でしょう。とても利用者本位とは言えません。もっと地域のニーズに立脚して考えなければいけなかったはずです。

-実施から約2年が経過し、少しずつ問題意識が強まってきたのかもしれません。

在宅での生活を継続していけるのかどうか――。その判断はやっぱり要介護度だけではできません。それ以外のポイントもきちんと抑えるべきです。子どもを保育園に預ける時だって、仕事の忙しさとか祖父母のサポートとかを考慮に入れますよね。特養はどうして違うんでしょうか? 本人の心身の状態や環境、家族の状況、地域資源といった要素も勘案して入所の是非を決めるべきです。今の仕組みは優しくありません。どうしても無理が生じますよね。確かに特例はありますが、実際にうまく機能しているケースは少ないのが実情です。

-国はその特例を使い「門前払い」をしないようにと指導していますよね?

施設の関係者はみんな、困難を抱えている高齢者を受け入れて支えたいと思っています。当然でしょう。ただそうすると、やがて経営の方が厳しくなっていってしまう。そういう報酬の設定になっていますよね。既に人手不足はかなり深刻ですから、非常に手間のかかる人に対応しきれないケースだってあります。施設側にも余裕はありません。つまり、現場にはどうしても断らざるを得ない事情があるんです。通知で「門前払いをするな」と呼びかけたからといって、問題がうまく解消していくとはとても思えません。

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