「介護の生産性」議論に欠けているもの

政府は経済財政諮問会議で「骨太方針2017」の策定に向けた議論を開始しました。一方、先がけて開かれた社会保障WGでは、医療・介護の供給体制における「生産性の向上」などに向けた有識者からのヒアリングが行われています。この「生産性の向上」に向けて欠けている議論がないかどうかを考えます。

介護・医療のアウトプットをどう考えるか?

介護のみならず、医療現場でも最近では、「患者本人の自発性」をいかに引き出すかが治療・療養の効果を高めるうえで欠かせない課題となっています。つまり、当事者から「自分で心身や生活の状況を改善する」という意欲を引き出せるかどうかにより、アウトプットの指標が変わってくるという視点です。

介護現場では、生活リハビリ等の効果を上げるのに「本人がその取り組みに前向きになれるかどうか」が大きなカギとなっています。そのために、「どのような環境づくりが必要なのか」を考え、QOLの向上とADL・IADLの改善は切り離せないという視点で、本人の生活観等にていねいに光を当てていくわけです。

一方、医療現場では、入院患者の早期の在宅復帰が収支上も欠かせなくなり、在宅医療が受け皿となる場面が増えています。そうした中では、治療・療養と生活との兼ね合いがますます重要となり、「疾患だけを診る」という医療は過去のものとなりつつあります。

生産性議論に必要なソーシャルワーク視点

こうした点を考えたとき、アウトプット指標を上げるには、「自発性を妨げる生活上の要因をていねいに取り除く」ことが欠かせません。つまり、「生活をきちんと見て、その人の抱える心理・環境面の課題を的確に分析する」ことが生産性の向上では必須となるわけです。

ところが、経済界の有識者などが語る「生産性の向上」といえば、現場業務のICT化やビッグデータ活用というレベルにとどまっています。もちろん、ITを駆使してのデータ分析は、現場の課題解決を客観的に行なううえで重要なポイントには違いありません。しかし、そのためには、その人の生活にかかる課題分析がきちんとなされることが大前提です。

問題なのは、この課題分析力、言い換えれば「当事者の生活状況とそこから生じるニーズ」を的確に把握するためのソーシャルワークの過程が、生産性の向上という議論ではなかなか注目されないことです。

たとえば、ビッグデータの中には、「日常生活圏域のニーズ調査」があり、一見「生活を推し量る指標」に結びつくと思われがちです。しかし、高齢者の「閉じこもり傾向」や「地域活動への参加意向」などは調査されても、「なぜ、そうした行動に結びついているのか」という背景要因にまで踏み込まれていません。

こうしたデータだけをいくら集めても、本人の自発性をうながす方策は導き出せません。「本人の身になる」という視点のかけた「広報」や「誘い」ばかりに力を入れても、費用対効果の点では無駄も多くなるでしょう(介護サービス情報公表制度などはその一例です)。ソーシャルワークの視点が抜けた施策は、逆に「生産性」を低下させてしまうわけです。

ケアマネだけに担わせることこそが非効率

もし介護での生産性を上げるというなら、ケアマネジメントの入口段階で、すでに「その人の困りごとがきちんと分析されている」というレベルでのソーシャルワークのしくみが必要です。これができた状態でケアマネにバトンタッチされることで、初めて介護業務の効率化・省力化が進むことになるはずです。

現状、ケアマネジメントでは、利用者が「何に困っているのか、自発性を妨げているものは何か」を試行錯誤しながら探り出すことが不可欠になっています。そうした過程をケアマネが何とか担っているにもかかわらず、報酬上はなかなか評価されません。

国としては、今回の改正法案の中に「わが事・丸ごと」という理念を組み込んでいます。この部分に「地域のソーシャルワーク力の向上」をきちんと位置づけ、「ケアマネがすべてを背負う」現状から地域での分担を図ること。ここに着目することこそが、真の意味での生産性向上をもたらすのではないでしょうか。

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