学生が集まらない! 介護福祉士の養成校、強まる焦燥感 打開策はあるのか?-介養協 事務局長 千葉一也


《 日本介護福祉士養成施設協会 千葉事務局長 》

介護福祉士を育てる専門学校や大学などの養成施設が、生徒を十分に集められず苦境に立たされている。日本介護福祉士養成施設協会によると、今年度に入学したのは全国で7,752人。1万6,704人の定員に対する充足率は46.4%で、「コムスンショック」の影響が強かった2008年度以来8年ぶりに5割を下回った。募集をやめたり課程を廃止したりするところもあり、定員自体もこの10年で37.8%減っている。

何が原因なのか? 若者からみた魅力の乏しさを指摘する声が多い。民間の施設で働く介護職員の月給は、全産業の平均より約9万円安い21万5,000円だ(2016年「賃金構造基本統計調査」)。2年間でおおむね200万円(入学金込み)の学費を払って資格を取っても、それに見合う待遇を受けられる保証はない。わざわざ介護福祉士にならなくても、「初任者研修」などを経て現場からキャリアを始めることも可能だ。しばらくして資格の必要性を認識すれば、「実務経験ルート」で働きながら目指す道がある。そう考える人が多い。

今後の制度の見直しにも不安が募る。現在は卒業するだけで資格を得られるが、来年度から国家試験の合格が段階的に義務付けられることになった。個々の資質を上げるための厳格化だが、養成校に進む「旨み」が減るという側面も軽視できない。ますます選ばれなくなってしまうのではないか…。関係者は頭痛の種を振り払えずにいる。

本格的な超高齢社会に突入していく今後に向けて、高い能力で地域包括ケアシステムを牽引する人材がより多く必要になるはずなのに、このままでいいのだろうか? 養成施設協会に胸中を尋ねた。「なんとかしないといずれ社会の要請に応えられなくなってしまう」。千葉一也事務局長は危惧の念をあらわした。キャリアパスの明確化やそれに伴う処遇の改善、学生への支援の充実などが欠かせないと訴える。国が主導して思い切った対策を打たないと根本的な解決にはつながらない。そんな思いが滲む。先行きは霧に覆われたままで見通しが悪い。焦燥感と苛立ちが徐々に強まっている。(取材・編集 Joint編集部 北村俊輔 青木太志)

-学生が少ないようですが今の状況をどう捉えていますか?

非常に厳しいです。充足率が46.4%なんですから。生徒が半分しかいないからといって、教員や設備まで減らすことはできません。経営は本当に厳しい。このままでは続けられなくなってしまう。なんとかしないといずれ社会の要請に応えられなくなってしまいます。

-最大の原因はやはり処遇でしょうか?

そもそも子どもの人口が減っていますので、苦しい大学などはたくさんあります。ただ我々の業界で言うと、やはり処遇の影響が大きいでしょう。最近は人手不足が特に深刻です。より多くの方に入ってきてもらうために、新人の賃金を高く設定する事業所もあります。きちっとしたキャリアを持つ職員と新人の差が縮まったところも出てきています。資格を取るメリットが大きくない。そう言わざるを得ません。養成施設を良い選択肢だと捉えていない人は実際におられます。高校の先生や親御さんが、進路の相談の際に勧めないケースもあると聞いています。

-今後の養成課程の変更も影響しそうですね。

国試の合格を義務付けることは、個々の資質や社会的地位の向上につなげるために必要だと認識しています。医師や看護師、理学療法士といった他の専門職をみてください。養成施設でしっかり学んで国試をクリアする。それが当たり前のプロセスです。介護福祉士はどうでしょうか。2年間の学校を出るだけでいい。現場で3年間働いて国試に受かる方法もある。これではやはり、簡単に取れる資格だって思われてしまいます。どこか下に見られてしまうというか、そういうことの原因ではないでしょうか。今後は介護福祉士もようやく肩を並べられるようになります。その方向性はいいのですが…。

-ですが…?

養成施設に入る利点は霞んでしまいますよね。卒業さえすれば資格を取れるということが、生徒からみれば学校に来る大きなメリットになっているわけですから…。それが「実務経験ルート」と同様に国試を受けなければいけなくなります。わざわざ養成施設に通う必要があるのか? 学費も決して安くありませんから、そうした疑問を抱く方が少なくないんです。我々としては、養成施設の価値をもっとアピールしていかなければいけません。

-養成施設の価値とは?

体系的な理論や専門的な知識、高度な技術といった専門職として欠かせない教養を、網羅的に身につけることができます。現場での経験を通して学んでいくとなると、その質は施設・事業所に委ねられることになります。根拠の乏しい我流の手法やセオリー、考え方などを教わったりすることもあるでしょう。もちろん良い教育をしているところも多いのですが。養成施設なら2年間みっちり基礎から学べます。まじめに勉強して課程をこなせば、ちゃんとしたプロフェッショナルになれる。それが最大の価値ですね。

-本来なら養成施設に通って学ぶべきだと?

「養成施設ルート」に一本化して初めて、他の専門職と対等なプロセスになるわけです。実際はなかなか難しいですけどね。量的な確保という観点も重要ですから、現行の複線的な仕組みを完全に否定するつもりはありません。ただやはり、養成施設できちんと学習する方が良いとは考えています。少なくとも、約8割が「実務経験ルート」という今の状況は好ましくないでしょう。介護福祉士は地域包括ケアシステムの中核を担う重要な存在ですよね。地域ではニーズの高度化・複雑化が進んでおり、今後はより高い資質が求められるようになっていきます。にもかかわらず、養成施設に進む若者はどんどん減ってしまっている。やはり大きな問題ではないでしょうか?

-どうしたらいいでしょう?

我々は「管理介護福祉士(仮称)」という新しい専門職の創設を提案しました。より高度な専門性を備え、現場でケアにあたるチームを指導して引っ張るリーダーになったり、広く地域を視野に入れてサービスをマネジメントしたりする役割を想定しています。実際に今後はそういう存在が必要になるでしょう。今の2年間のカリキュラムでは足りません。より充実した教育課程を設け、現場を統率する介護のスペシャリストが育っていく道を作る。その道を極めた人には、そうでない人より高い報酬を与えていく。そうした方向を目指すべきです。国も今後の介護福祉士のあり方を検討しているようですが、早くはっきりとしたビジョンを明らかにすべきではないでしょうか。今は危機の真っ只中です。質の高い人材をできるだけ多く確保するためにどうしたらいいのか、真剣に考えて早急に手を打たなければいけません。問題を放置して不利益を被るのは高齢者、そして国民なんですから。

千葉一也 日本介護福祉士養成施設協会 事務局長

1979年に厚生省社会局採用。その後、主に社会福祉関係の部門を担当。2013年に厚生労働省を退職。2015年より現職。

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