財政インセンティブ導入をめぐる課題

昨年末の介護保険部会での取りまとめ意見で、高齢者の自立支援や介護予防の取り組みに対して、市町村や都道府県に対する財政面でのインセンティブ導入の方針が示されました。その後の厚労相と財務相の折衝では、2018年度からの導入を視野に、具体的なしくみ作りでの合意がなされています。この「財政面でのインセンティブ導入」は、果たして適正な運営が期待できるのでしょうか。

財政インセンティブを介護報酬にたとえると

インセンティブ導入を介護施設・事業者に当てはめれば、「加算」に該当します。ただし、加算を取るためには相応の設備投資や人員体制の確保が必要で、その資源となる基本報酬が下がれば、法人に基礎体力があるか否か(スケールメリットが活かせる規模があるかどうかなど)によって、加算取得の能力が分かれてきます。つまり、基本報酬を下げ、それを加算で補うというしくみは、経営状況の二極化をもたらすことになります。先の報酬改定の問題の多くは、この点に凝縮されています。

では、介護保険の運営者となる自治体に、このしくみを導入すればどうなるでしょうか。介護給付費に関しては、国の拠出は20%(施設等給付費においては15%)で、これに調整交付金が加わります。地域支援事業のうち、包括的支援事業・任意事業については、国の負担割合は39%となります(介護予防・日常生活支援総合事業については居宅の介護給付費と同様)。これを動かさないという前提であれば、「基本報酬」に該当する部分は変わらず、単純に「加算」が上乗せされるわけです。

くすぶり続けるディスインセンティブ議論

注意したいのは、今回のインセンティブ議論の中で、「財政中立(介護保険にかかる財政拠出を増やさない)のために、ディスインセンティブのしくみを導入する」ことも検討課題に上がっていることです。介護保険部会の意見では「追加財源確保」との両論併記になっていますが、追加財源に二の足を踏みがちな財務省から「ディスインセンティブ導入」への圧力が強まることも考えられます。

ディスインセンティブを介護報酬に当てはめれば、「減算」となります。たとえば、人員体制にかかる減算となれば、一定の経過措置が必要で、そうしたソフトランディングのしくみがなければ、特定事業所集中減算のような混乱が生じるのは必至です。自治体の介護保険運営であれば、窓口振り分けなどによる認定率の「不当な抑制」が働く懸念もあります。そうなれば、重度化防止という目的とは真逆の事態が生じかねません。

もう一つの懸念は、仮に「追加財源の確保はしない」となった場合に、ディスインセンティブの代わりに「介護保険にかかる国の拠出割合を引き下げて、スタート時の公平化を図る」という議論が出る可能性です。つまり、介護報酬でいえば「基本報酬を引き下げる」ことになります。いきなり介護給付費の割合に着手すれば影響が大きすぎると判断されれば、「包括的支援事業・任意事業から着手」となることも考えられます。

保険者運営の適正化チェックの強化も必要に

上記の仮説は杞憂でしょうか。しかし、財務省としては、今回の介護保険部会の取りまとめ意見が、当初に財務省が想定していた工程から「だいぶ押し戻された」という印象は根強いはずです。「どこかで当初の工程に見合った介護保険の締め付けは必要」と考えている可能性はあり、通常国会提出予定の法案に割り込ませないとも限りません。

いずれにしても、インセンティブにかかる何らかのしくみが導入されるとして、市町村や都道府県が適正に介護保険を運営しているかどうかを介護事業者や利用者が十分にチェックするしくみが同時に必要です。考えてみれば、保険者による事業所監査・指導はあるものの、保険者を(国民や現場の目から)定期的に審査するしくみは、既存の不服申し立ての制度くらいしかありません。インセンティブ導入と同時に、住民と事業者の代表から構成する、より強い権限をもった「行政チェック」のしくみを考えたいものです。

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