「新しい混合介護」の衝撃 サービス価格の自由化で現場はどう変わるのか? Vol.2

介護保険で賄われるサービスとそれ以外のサービスを組み合わせた、いわゆる「混合介護」。前回に引き続いて立場の異なる2人の有識者の評価を紹介する。(Joint編集部 青木太志)

「利用者を守るのは国の規制じゃない。健全な競争だ」-八代尚宏


《 八代尚宏 昭和女子大学グローバルビジネス学部長・特命教授 》

価格が自由化されると、高齢者があまり必要のない高額なサービスを買わされるようになる、という危惧があるようです。医療ではその可能性があるでしょう。医師が必ず必要だと説明すれば、多くの患者はそれに従うしかありません。効き目のない治療まで受けさせられることになってしまう。一方で介護の場合、そういう問題はないですよね。そのサービスが必要かどうか、価格が妥当な水準かどうかは、個々の利用者が主観的に判断すればいい。他の一般的なサービスと同じです。「押し売り」のようなリスクは小さいのではないでしょうか。

確かに、消費者としての判断が的確にできない人もいます。そこはしっかり守れる仕組みを作らなければいけません。ケアマネジャーなどにきちんとチェックさせたり、事業所に情報の開示を義務付けたりすることも一案でしょう。一方で、大部分の高齢者は自分で考えて選択できます。判断力の乏しい一部の人のために、高齢者全体に制限をかけてしまうのはおかしい。過剰規制です。原則として価格の自由化を認めたうえで、例外として認知症の人などを保護する仕組みに変えるべきでしょう。

そもそも、政府が規制をかけないと利用者が守れないという発想には違和感があります。私は健全な市場の競争が利用者を守っていくと強調しておきたい。競争が活発になればなるほど、悪質な事業者は排除されていきます。利用者を騙して搾取するようなことは続けられません。それぞれが支持を得ようとしのぎを削る結果として、サービスの質は徐々に上がっていくんです。良い事業者だけが生き残っていくんです。それこそまさに、今の介護業界に求められていることではないでしょうか。

経済的に余裕のある人ばかりが恩恵を受けるとの指摘もありました。高齢者はもともと暮らしの格差が大きい。裕福な人は従来から、クオリティと値段の高い保険外サービスを使っていますよね。すでに相当な開きがあるんです。価格の自由化が認められれば、中所得層も介護報酬との差額分だけでより良いサービスが受けられるようになるので、ギャップはむしろ縮まるでしょう。保険外の展開で事業者の収益が改善されていけば、さらに多く企業がチャンスを見込んで参戦してきます。保険内のみの利用者にもメリットが及んでくるでしょう。

保険外の価格が高止まりする懸念も小さいとみています。これは参入の自由度に依存するんですね。入り口が厳しく制限されていると、当然そういう問題が起きてくるでしょう。ただし、在宅介護の分野は参入がとても容易です。規模の小さい事業者も、実際にどんどん入ってきていますよね。保険内のみを扱うところも含め、割安なサービスを提供する事業者が不足するとは考えられません。

それでも心配だと言うのであれば、何らかのルールを設けてもいい。例えば、一定の割合は必ず介護報酬と同じ価格のサービスを提供しなければいけない、といった案もあるでしょう。過疎地や離島など事業者が少ない地域でも、実情に合った措置をとる必要がありそうです。

無駄な給付を増やしてしまうという指摘もありました。他の問題提起も同じなのですが、私だって懸念が全く無いと言うつもりはありません。ただし、それらはすべてクリアすべき課題だと捉えるべきではないでしょうか。今後のより急激な高齢化を考慮すると、価格の自由化を認めるメリットは非常に大きいんです。副作用が出るかもしれないからやらない、と言っていてはいつまで経っても改革はできません。

そもそも、指摘されている問題はほとんど既に存在しているものですよね。価格の自由化によって新たに生じるわけではありません。今の制度だって必ずしもうまくいってないんですから、この改革を機に改善を図ればいいんです。過渡的には色々な問題が顕在化するかもしれませんが、長期的には良い方向に向かうのではないでしょうか。

昭和女子大学グローバルビジネス学部長・特命教授 八代尚宏

国際基督教大学教養学部と東京大学経済学部を卒業後、経済企画庁に入庁。在職中に米国メリーランド大学で経済学博士号を取得。OECD経済統計局日本・アイルランド室長などを歴任。その後、上智大学国際関係研究所教授、日本経済研究センター理事長、国際基督教大学教養学部教授などを経て現職。政府の「規制改革会議」や「経済財政諮問会議」の議員としても活躍した。著書に「シルバー民主主義(中公新書)」他。

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