【施設火災】10人が焼死した老人ホーム「たまゆら」理事長ら逮捕へ

入所者10人死亡というニッポン高齢者福祉史上最大の惨劇となった群馬県内の老人福祉施設「静養ホームたまゆら」(渋川市北橘町八崎2334-1 )の火災事件から約11ヵ月、群馬県警察本部はこのほど、施設を運営していたNPO法人「彩経会」(渋川市北橘町八崎2334-1)の理事長・高桑五郎容疑者(85)=渋川市北橘町八崎=と、理事の久保トミ子容疑者(73)=前橋市南橘町=を業務上過失致死容疑で逮捕した。
群馬県警は今月10日付で渋川警察署に調査本部を設置し、今後本格的に究明を進めていく。

いまだに出火原因は特定できていないものの、今回の立件に至った理由として捜査本部では、1.「たまゆら」が無届けとはいえ実質的な有料老人ホームに該当すること 2.建築基準法関連が定める構造をとっていないこと 3.入所者が自らで解除できない施錠をしていたこと――の3点を挙げている。

「たまゆら」には昨年3月19日の火災発生当時、65歳以上の高齢者17人を含む22人が有料で入所していた。
入浴や排泄・食事の介護などをサービスとして実施していたことから、実質的には有料老人ホームだったと判断された。
そのため業務上の注意義務が発生することとなる。

また2005年8月から4回にわたって無届けで増改築を繰り返しており、建築基準法などへの違反は計13件にも上る。
福祉施設の構造として主要な壁などに耐火材を使用することを義務付けられているが、増改築の際には「『日曜大工』でベニヤ材などを使っていた」と、複数の関係者からの証言もある。

さらに「たまゆら」では、「入所者の徘徊防止のために」と称して食堂の出入り口など3ヵ所を南京錠などで施錠しており、入居者が自ら避難することは事実上不可能であった。
高桑理事長は「今回の事件の責任はすべて私にある」として、大半の容疑について認めているという。

その高桑容疑者自身は、渋川市北橘町八崎一帯を「福祉の里」にする構想を夢に描いていたとされる。
「福祉の里」構想は約5000平方メートルの広大な土地に、特別養護老人ホームやヒューマンデイサービス施設・心身障害者授産施設・福祉農園・痴呆老人グループホーム・武道館・ショッピングセンター・地域交流ホーム・健康遊歩道などを整備するという壮大なものだった。

しかし工事費等の調達もならず、元建設業者の経験しかない高桑理事長の「夢」が果たされる兆しは見えてこない。
「たまゆら」建設中においても建物鉄骨が半年以上にわたり野ざらしになっていたこともあったほどであった。
なんとか2000年に「たまゆら」をオープンさせてからも、理事長自ら「生活相談員」としても日夜奔走していた。

2004年からは、東京都墨田区に生活保護受給者の受け入れを始めるなど経営を軌道に乗せようともしていた。
しかし認知症の高齢者が「脱走」するなどたまゆら近隣地区の住民を巻き込んだトラブルが続発。
職員の給与も満足に払えない「自転車操業」状態となった施設は恒常的に人手不足で、借金もかさんでいた。

元ヘルパーの女性は高桑理事長について「身寄りのない人のために何とかしたいと理想を持っていたようだが、まったく行動が伴わなかった」などとも語っている。
「なんとしても理想の福祉の里をつくる。福祉は人だ」が高桑容疑者の口癖だったという。

「たまゆら」(および高桑容疑者らNPO幹部)の責任が厳しく問われる一方で、福祉の現場を知る専門家からは、ニッポン的老人福祉政策への疑問の声も上がっている。
介護についての相談活動などに取り組む市民団体「市民福祉情報オフィス・ハスカップ」の主宰者・小竹雅子さんは、高桑容疑者の責任は大きいとしながらも、「都内に受け入れ施設がないから、区はたまゆらを紹介し、たまゆら側も受け入れた。無届け施設に頼らざるを得ない状況は解消されていない」と指摘している。

また「たまゆら」同様に生活保護を受給する独居高齢者を受け入れている「闇の老人ホーム」施設経営者のある男性は、「居住地の外に高齢者を送り出した自治体に責任はないのか? 受け入れた自治体は何故たまゆらを無届け施設のまま放置したのか」と批判の弁を述べる。

また東京自治体労働組合総連合は、有料老人ホームの約1割にも達する無届け施設が存在している根本的な原因として、「特別養護老人ホームや高齢者のグループホームの整備が進まず、施設入所まで何年も待たされるという決定的な施設不足」を指摘。
またその背景には、届け出をすることで施設の負担コストが増し、利用者である低所得者がその費用負担増に対応できない実態があるとして、世紀を跨いでも引き続く社会保障・社会福祉費のニッポン的圧縮政策を批判している。

今回の「たまゆら火災事故」を受ける形で無認可・無届けの「闇の老人ホーム」への行政の監視の目が届くようにする狙いのもと、厚生労働省では全国自治体に業者の届け出を促進するように求めてきている。
しかし、届け出による負担増や必要な書類作成にかかる事務負担などがネックとなり、なかなか届け出数が増えないのが現状という。
「『闇の老人ホーム』は、GNP世界2位の先進国ニッポンにおける「社会的必要悪」としてしばらく存在することは避けられそうにもない。


■用語解説
有料老人ホーム
老人福祉法第29条の規定によると、老人を入居させ、1.食事の提供 2.入浴・排泄または食事の介護 3.洗濯・掃除等の家事 4.健康管理――上記4つのうちいずれかのサービスを行なう施設のこと(委託の場合や将来の供与を約束する場合もふくむ)。

■関連サイト
厚生労働省「未届の有料老人ホームに該当しうる施設に対する指導状況等におけるフォローアップ調査の結果について」 HP
NPO法人データベース「特定非営利活動法人 彩経会」 HP

コメントを見るには...

このページの先頭へ