介護業界「勝ち組」の法則と課題

日本医師会のシンクタンクである日医総研が、「介護サービスを提供する株式会社の現状」と題したワーキングペーパーを発表しました。介護保険財政のひっ迫に伴って介護報酬の伸びが抑制される中、厳しい経営状況や従事者の低待遇が常々問題として上げられます。

しかしながら、ここで示されている(全国的に名前がよく知られている)大手企業の場合は、少々状況が異なるようです。

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売上高についていえば、有名大手企業は軒並み「右肩上がり」となっています。一方、営業利益率については2006年度の大幅な報酬減を受けて、一部マイナスを示している企業があるものの、2009年度のプラス改定の影響からか、2010年度には総じてプラスに転化しています。これだけを見ると、「介護事業者は儲かっている」という判断も浮上しがちです。

ただし、注意したいのは2つのポイントです。1つは、大手企業で利益率が高い所は、介護保険以外の売上比率が高い点です。もう1つは、介護保険事業が中心となっている企業でも、臨時雇用者等の比率が高い所は、一定の利益率を上げていることです。

前者については、同ペーパーでも指摘されているとおり、スケールメリットを活かしながら介護保険利用者を囲い込み、同時に介護保険外サービスも提供しながら利益を上げていく傾向が見られます。保険外サービスであれば、価格設定の自由度が高くなるので、一定以上の所得者層をメインターゲットにすれば、安定的な利益確保も可能となります。

後者については、臨時雇用者の明確な定義づけはなされていませんが(企業によっても定義づけが変わる可能性あり)、非常勤の短時間労働者なども含まれるケースがあると思われます。いずれにしても、臨時雇用であれば昇給や賞与などの人件費コストが抑えられる可能性があり、企業側にとっては利益を調整しやすい環境にあるという見方もできます。

以上の点を考慮したとき、介護事業で収益を安定させるための法則が浮かび上がってきます。やや大雑把な括り方ではありますが、例えば、以下のような分析ができます。
(1)一定以上の資産がある利用者を対象とした保険外サービスを「本来的な営業の柱」とし、介護保険サービスはあくまで顧客確保をにらんだ「販売促進」的な位置づけとする。
(2)市場動向に応じて人件費コストの調整を進めやすくするため、潜在的な介護労働者層の多くを占める(子育てなどでいったん業界を離れていたが、キャリアはある)主婦層などをパート型即戦力として活用していく。

問題は、仮にこうした事業形態が「業界で生き残る法則」になった場合、そこから排除されがちなニーズが存在することです。(1)で言うなら、介護保険サービスのみに頼らざるを得ない低所得者層の利用者はどうなるのか。(2)では、若い人たちを中心に、「介護を一生の仕事としたい」という労働ニーズをきちんととらえることができるのか、ということです。

逆に言えば、低所得者層も視野に入れつつ、地域のセーフティネットを担おうという事業所、あるいは、人材を一から育て、長い目で見た安定雇用の受け皿を志向する──そういうビジョンをもちつつ、かつ、経営資源のストックが限られた中小規模事業所というのは、業界内での生き残りは厳しいことになります。

介護報酬の大幅な伸びが期待できないまま、上記のような事業所が淘汰されていった場合、それは「国民の安心」を担う介護事業のあり方として正しい姿なのでしょうか。社会的な議論に結び付けたいテーマの一つといえます。

(福祉ジャーナリスト 田中 元)

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