原則自宅療養、介護への影響は?

f:id:testcaremane:20210817141916j:plain

新型コロナウイルス変異株の感染が急拡大する中、政府は「緊急的な患者療養の考え方」を示しました。「自宅療養」を基本とし、「入院対象者」を重点化するという措置です。当初、入院対象者の基準や対象地域が明確でなかったことで大きな混乱が生じました。その後の通知で明確化が図られましたが、自宅療養を基本とする方針は変わっていません。

明確化された通知内容を改めて整理すると…

自宅療養が基本になるということは、介護分野における居宅系サービスにも影響がおよぼす可能性があります。そこで、明確化された通知の内容を改めて整理しておきましょう。

まず確認しておきたいのは、今回の通知は「東京都をはじめ感染者が急増している地域」における「新たな選択肢」として位置づけられたものです。つまり、最終的には「それぞれの自治体判断」である点に注意が必要です。

そのうえで、「自宅療養、宿泊療養、入院の基準」を以下のように定めています。

(1)感染者のうち、入院させる必要がある患者「以外」→自宅療養を基本とする
(2)(1)のうち、家庭内感染の恐れや自宅療養ができない事情等がある場合→宿泊療養を利用
(3)「重症患者、中等症患者で酸素投与が必要な者」、あるいは「酸素投与が必要で重症化リスクがある者」→入院
(4)(3)については、最終的に医師が判断する

ちなみに、見直し前は「重症化リスクが高い者を中心→原則として入院」、「軽症、無症状患者→原則として宿泊療養」、「やむをえず宿泊療養を行なえない者→自宅療養」となっていました。「例外的扱い」だった「自宅療養」が、見直し後は「原則」となったわけです。

診療報酬上では自宅療養者への新たな特例も

上記の基準を運営するうえで、必要な体制確保については以下のように示しています。

(4)病床・宿泊療養施設の確保に取り組む
(5)自宅・宿泊療養者の症状悪化時の入院に備えて、一定の空床を確保する
(6)健康管理体制を強化した宿泊療養施設増強
(7)自宅療養者への健康観察をさらに強化

(6)、(7)の健康管理体制や健康観察の強化についての具体的な対応は、以下のとおりです。

●自宅・宿泊療養者への往診・オンライン診療等の医療支援体制の確保。この場合の具体的な施策として、自宅・宿泊療養者を対象に、診療報酬上で以下の特例を設けました。
・往診・訪問診療→1日あたり1回、救急医療管理加算(950単位)を算定
・(診療報酬上の)訪問看護→1日あたり1回、長時間訪問看護加算(5200円)を算定

●以上に加え、自宅療養者については、「パルスオキシメーターの配布」、「入院への移行時の搬送手段の整備」を行なうこと

このほか、厚労省のHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)を搭載したスマホでの健康管理(家族全員の健康管理が可能)や、自動音声応答システムを活用した自動電話等による健康管理を推進する、などが示されています。

「原則入院」だった高齢者層はどうなるか?

さて、介護現場においては、病床ひっ迫時での介護サービス利用者への対応として、「医師の判断のもと、やむを得ず自宅・宿泊療養および施設入所の継続」がなされるケースがあります。そのための要件・基準などについて、たびたび厚労省通知も発出されています。

これらの通知が発出された時点では、「高齢者が感染した場合は入院が原則」でした。つまり、自宅・宿泊療養、あるいは施設入所の継続は、あくまで例外的な位置づけだったことになります。これが、今回の「緊急的な患者療養の考え方」が示されたことで、変わっていく可能性はあるのでしょうか。

今回の「考え方」の前提は、「若年層を中心とした急速な感染拡大」です。その一方、通知内では「65歳以上の感染者数の割合は大きく低下している」、「高齢者の重症者数は低い水準で推移している」と記されています。

もちろん、今回の「原則は自宅療養」という対象について、要介護高齢者への対応は明言されていません。しかし、上記のような前提をあえて示したということは、「原則は入院」としていた高齢者層について、今回の通知を一律に適用するという解釈も成り立ちます。

緊急的な考え方に介護現場も巻き込まれる?

特に問題となるのは、施設のように身近に配置医などがいない在宅の要介護者です。

たとえば、保健所の実務負担などが厳しい状況にある中、パルスオキシメーターの配布を誰が行なうのか。スマホ活用に慣れていない高齢者世帯でHER-SYSなどの活用を進めるのは、どのようなしくみが必要なのか。

こうした課題への対応に向け、やがては訪問系の居宅サービスやケアマネの役割がクローズアップされる可能性があります。過去の通知では、2月5日の「病床ひっ迫時における在宅要介護高齢者が感染した場合の留意点等について」が基本となりますが、今回の「緊急的な患者療養の考え方」が実際に適用されるとなれば、上書き改定なども予想されます。

そうなれば、過去の補正予算や地域支援事業の活用だけでなく、診療報酬のような介護報酬上の措置や政府予算の予備費での新たな経費枠の導入なども不可欠でしょう。今回の「緊急的な考え方」により、介護側の役割はどうなるのかについて、職能団体などからも積極的な政府への問いただしが求められます。

※今回の記事は、8月9日時点までの情報をもとにしています。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。