新プラン検証で懸念されること

f:id:testcaremane:20210805173118j:plain

 

7月28日の介護給付費分科会で、「居宅介護支援事業所単位で抽出するケアプラン検証」に向けた対象事業所案が示されました。2021年度の居宅介護支援の運営基準改定を受けて、新たなケアプラン検証が10月にスタートします。その対象要件を示したものです。

改めて2021年度改定の条文を整理すると…

10月から始まる新たなケアプラン検証は、2021年度改定で追加された「居宅介護支援等の運営基準第13条 18の3」にもとづくものです。改めて条文のポイントを整理します。

(1)新規定の趣旨→一定の要件に該当する事業所における「市町村へのケアプラン届出」
(2)届出要件で判定される対象→事業所ごと
(3)要件内容(1)→(2)の事業所のケアプラン全体について、「区分支給限度基準額」におけるサービス費の総額の割合が一定以上
(4)要件内容(2)→(2)の事業所のケアプラン全体について、サービス費の総額における「訪問介護費」の割合が一定以上
(5)要件内容(3)→市町村の求めがあること
(6)届出の対象→(3)~(5)をいずれも満たすこと

今回、介護給付費分科会で提示された案は、(3)と(4)の割合です。前者で「7割以上」、後者で「3割以上」と示されました。前者は一般在宅等での区分支給限度基準額に対する平均的な割合、後者は「利用者1人あたり」の居宅サービスに対する訪問介護費の割合(介護給付費実態統計より)とおおむね一致します。

新プラン検証が登場した背景には何が?

では、今回の改定はどのような背景のもとで生まれたのでしょうか。前提となるのは、2018年度改定で定められた「生活援助中心型の訪問回数が多い(全国平均利用回数+2標準偏差)ケアプランの保険者届出」です。

もともと、財務省側の給付費適正化に向けた意図のもとでスタートしたしくみですが、その後に新たな指摘が浮上しました。発端は、厚労省の調査研究の中で、自治体側から出された意見です。それは、2018年度の見直し以降、「ケアプランの届出を避ける目的と思われるプランの変更が見られた」というもの。その「プラン変更」は、「適切に検討されることなく、生活援助から身体介護に置き換えられた」ものであるとしています。

財務省の財政制度分科会は、上記の意見とともに2018年度以降の「身体介護の受給者数が伸びている」というデータを取り上げました。そのうえで、「身体介護も含めた訪問介護全体の回数で(ケアプランの)届出を義務づける」ことを求めていました。

生活援助→身体介護の切り替え増を問題視?

要するに、財務省側としては、「頻回の生活援助を対象としたプラン点検を導入したら、生活援助を身体介護に置き換えるという動きにつながった」ことを問題視したわけです。それゆえに、「身体介護にも網をかける」ことを図ったのが今回の改定と位置づけられます。

ここで違和感を覚えるケアマネもいるでしょう。2018年度には、「頻回の生活援助にかかるケアプラン点検」の規定とともに、通知改正で「生活援助から身体介護への切り替え」に向けた受け皿が整備されたからです。

その通知改正とは、「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について(いわゆる老計10号)」です。主たる改正点は、1-6の「自立支援・重度化防止のための見守り的援助」で、さまざまな家事行為について「ヘルパーが利用者と一緒に行なう」といった内容の追記が中心です。また、認知症の利用者への「見守り・声かけ」によって、水分摂取などを「できるだけ一人で行なえるようにする」といった内容も含まれています。

この通知改正によって、「すべて生活援助で手がける」のではなく、本人の活動・参加をうながして自立支援・重度化防止につなげるという方向性が強化されました。当然、それまでの生活援助の状況を見直しながら、「生活援助→身体介護の1-6」という切り替えを行なうというケースが生じることは、ある意味「望ましい方向」として想定されたはずです。

自立支援の理念から離れた「抑制」に注意

もちろん、先の自治体意見にあるように「適切に検討されたものか否か」という課題はあります。しかし、機械的な割合判定が示されることで、「現場での適切な検討」という以前に、再び「プラン点検にかけられないように」という動きが生じてしまう可能性もあります。

注意したいのは、2018年度のプラン点検によって、「業務負担が増えた」という居宅介護支援事業所が5割以上を占めていることです。今改定で「点検は年に1回」となりましたが、事業所単位となったことで、逆に「実務上の手間は増やしたくない」という組織的なバイアスはかかりやすくなるかもしれません。

結果として、現場のケアマネが「自立支援に必要な身体介護」と考えても、事業所判断で「抑制する」という流れが強まる可能性もあります。厚労省としては、「訪問介護の利用抑制につながらない」ことを念頭に置いたしくみとしていますが、どこまで上記の「自主規制」などに配慮したのかが気になります。

懸念されるのは、財務省側の意向が強く働く中、今改定が「自立支援・重度化防止」の趣旨から離れ、単純に「身体介護を含めた訪問介護全体の給付抑制」につながらないかという点です。「軽度要介護者の訪問介護等を給付から外す」という論点が再び浮上する可能性もありますが、次の法改正等の動きとの兼ね合いに注意を払う必要もあります。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。