介護福祉士の任用範囲を考える

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介護保険をめぐる報酬や運営規程が揺れ動く中、介護福祉士の実務負担と処遇のバランスがますます大きな課題となっています。掘り下げたいのが、介護福祉士の社会的な位置づけです。その就労状況にも着目しつつ、「これからの介護福祉士」のあり方を考えます。

介福士の高齢者福祉就労に「変化」の兆し⁉

公益社団法人・社会福祉振興・試験センターが、2020年度の「社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士の就労状況調査(速報版)」を公表しています。それによれば、介護福祉士の就労分野は、81.8%が高齢者福祉関係です。割合的には圧倒的と言っていいでしょう。

ただし、過去の調査(2012、2015年度)と比較してみると、84.8%→84.0%→81.8%(今回)と微妙に割合が低下しつつあります。

対して、高齢者福祉以外の分野では、障がい福祉分野が6.7%→7.7%→9.4%と伸びを広げています。医療分野は6.1%にとどまっていますが、2012年度が5.4%なので、やはり増加トレンドにあります。医療分野の場合、医療法人に就職しても、老健や介護医療院、あるいは医療機関併設の介護付きホームなど「高齢者福祉」分野でカウントされることがあります。その点から、数字以上に「医療分野」に参入している可能性もあるでしょう。

社福士の就労分野は、すでに多様化が進行中

もちろん、この数字だけでは「わずかな変化」にとどまるものかもしれません。とはいえ、いわゆる団塊世代が全員65歳以上(1号被保険者)となり、高齢者介護ニーズが拡大の一途をたどるもとでは、就労分野が思いのほか「分散化」していると言えるでしょう。

もっとも、社会の福祉ニーズの多様化や若い世代の職業選択の多様性を考えれば、「分散化」はある意味当然かもしれません。逆に言えば、それでも「8割以上が高齢者福祉分野に集中している」という方が、時代の流れに沿っていないという見方もできそうです。

一方、社会福祉士の状況を見ると、就労分野は極めて多様です。高齢者福祉分野は、配置基準が設けられている包括が加わっていますが、それでも全体で39.3%にとどまります。

他分野としては、障がい福祉分野が17.6%、医療分野が15.1%、地域福祉分野(市町村社協など)が8.4%、児童・母子分野が8.2%、行政分野(市町村役場勤務など)も6.7%にのぼります。いずれも、過去データと比較して少しずつ割合を高めていて、その分「高齢者福祉分野」の割合は減少しています。

介福士と社福士、求められる資質に重なりも

こうして見ると、介護福祉士と比べて社会福祉士の就労の多様性が目立ち、しかも分散化が近年さらに進んでいることがわかります。

確かに社会福祉士の場合、相談援助や各種マネジメントにかかる業務比重が高いなど、介護福祉士とは根本的な業務範囲が異なるかもしれません。受検資格を得るための養成ルートなども異なります。その点で「比較にはならない」と思われる人もいるでしょう。

しかし、よくよく考えてみると、介護福祉士も利用者やその家族からの相談を受けて、他職種・他機関に「つなぐ」という役割を担っている場面もあります。また、組織内はもちろんのこと、場合によっては地域連携の中でさまざまなマネジメントやコーディネーター役を果たしていることもあります。

いずれも、業務としてはインフォーマルである場合が多いですが、専門職の資質として求められる方向性は、意外に重なっている部分も多いのではないででしょうか。

問題は、そうした部分に着目した介護福祉士の教育や評価のしくみが十分に整っていないことです。何よりもこの点の改革が前提となりますが、道筋を整えることは可能です。

たとえば、一時期国も打ち出そうとしていた認定介護福祉士(現在は民間資格)。これについて、必要とされる相談援助や各種マネジメントのスキルを整理したうえで、幅広い福祉分野の任用資格として打ち出すといった施策のあり方も考えられるでしょう。

医療での社福士重用、介福士にも可能性が⁉

ここで、社会福祉士の幅広い分野での評価に目を移してみます。たとえば、診療報酬上でも「入退院支援」や「認知症ケア」にかかる体制要件に含まれています。入退院支援や認知症ケアでは、患者の「生活の意向」に着目しながら、その人らしい在宅生活や社会参加の道筋を築いていくことが欠かせません。その意味で、社会福祉士のスキルは必須となり、医療側もそのことを認めているわけです。

しかし、スムーズな在宅復帰や社会参加への道筋となった場合、その人の「している・してきた生活行為」にきちんと着目することも欠かせません。そこには、介護福祉士のスキルが求められる余地も多分にあります。そして、そのことは診療報酬上だけでなく、地域福祉全般や行政の手がける住民福祉の分野においても通用する考え方といえます。

社会全般における介護福祉士の任用範囲を広げることは、その社会的な存在価値を高めるとともに、長い目で見れば処遇の底上げにもつながります。現状では介護報酬上の処遇改善もより必要ですが、同時に長期的な視野に立った介護福祉士の位置づけを見直すこと。この両輪がますます必要になっています。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。