2022年の「骨太の方針」に注意

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6月18日、政府が「経済財政運営と改革の基本方針2021」を閣議決定しました。負担と給付の関係(利用者負担の見直しなど)にかかる踏み込みは見られないものの、予定される2年後の法改正、3年後の報酬・基準改定への「布石」となりそうな内容が見られます。

骨太の方針は、介護保険見直しの土台となる

政府の「経済財政運営と改革の基本方針(以下、骨太の方針)」といえば、その時々の社会保障制度の見直しを進める原動力となってきました。方針自体は具体的な内容に踏み込んでいなくても、その後に示される改革工程表で具体策が浮上するという流れになります。

これを受けて、社会保障審議会の介護保険部会や介護給付費分科会で「改革すべきテーマ」として取り上げられ、法改正や報酬・基準改定に結びついていきます。後で振り返ると、「あの時の骨太の方針が土台となっていた」と気づくことも多いでしょう。

では、2020年の法改正、あるいは今回(2021年度)の報酬・基準改定において、「骨太の方針2019、あるいは2020」の記載がどのように反映されたのでしょうか。

骨太の方針2019はLIFE改革のエンジンに

骨太の方針2019では、以下の記載があります。「栄養状態を含む高齢者の状態やケアの内容等のデータを収集・分析するデータベースの構築、AIも活用した科学的なケアプランの実用化にむけた取組の推進などの科学的介護の推進等を行なう」というものです。

「データベース構築」についてはCHASEが稼働し、「データの収集・分析」については、2020年の法改正(介護保険法第118条の2)で、介護サービス事業者からのデータ収集を可能とする条文がプラスされました。これによって、2021年度からの「LIFEによる情報収集」のしくみが大きく進んだわけです。

ちなみに、「AIも活用した科学的なケアプランの実用化」は制度化されていません。ただし、この骨太の方針の後に「ケアプラン様式の見直し」や「想定される疾患別の支援内容」を記した「適切なケアマネジメント手法の手引き」が次々と公表されました。

これらを「科学的なケアプランの実用化」に向けた下地と見るならば、次の法改正および報酬・基準改定議論の前年にあたる「2022年の骨太の方針」で、より具体化された形で示される可能性があります。ケアマネとしては、この点を注意しておくべきでしょう。

今改定でのアウトカム評価の拡大にも影響

さて、骨太の方針2019から、それ以外の記載とその後の具体化の関係を上げてみます。

●「経営の大規模化・協働化を通じて、医療・福祉サービス改革による生産性の向上を図る」→「社会福祉連携推進法人の制度化」

●「ADLの改善などアウトカムの基づく支払いの導入等を引き続き進めていく」→「ADL維持等加算の対象サービスの拡大」および「褥瘡マネジメント加算、排せつ支援加算についいてアウトカム評価の新区分を設定」

さらに、骨太の方針2020に関しては、「デジタル化への集中投資・実装とその環境整備」として、以下のような見直しが行われました。

●「原則として、書面・押印・対面の不要とし、デジタルで完結できるよう見直す」→「利用者への書面提示を電磁的記録(タブレット等)で行ない、同意について電子メールや電子署名等の活用が可能」あるいは「各種会議(利用者の同意を得たうえで、サ担会議等含む)のオンラインでの開催を可能に」

では、今回示された「骨太の方針2021」の中から、気になるポイントはどこにあるのでしょうか。先に述べたように、具体的な改革スケジュールに乗せるとすれば、来年の「骨太の方針2022」が本番となりますが、そのたたき台となる部分が見受けられます。

次の改定で進む? 医療への情報提供標準化

注目したいのは、社会保障改革において「医療・特定健診等の情報を全国の医療機関等で確認できるしくみ」への集中的な取組が目指されていることです。ここに「医療機関・介護事業所における情報共有」が絡んでいます。

ここで、現状の「LIFEへのデータ提供」に目を移してみます。たとえば、栄養状態にかかるデータ内に「利用者の血清アルブミン値」を入力する部分があります。LIFEの手引きによれば、「後期高齢者医療健診で血清アルブミン値を測定している場合は、そのデータを入力することも可能」としています。

すでにLIFE上で、健診結果の活用を図るという下地が示されているわけです。こうした情報をデジタル化してLIFEの画面上で共有できれば、(もちろん、個人情報保護にかかる法制強化も必要ですが)利用者の医療情報の収集などの効率化も可能でしょう。

ただし、こうした情報のデジタル化が進むということは、医療機関等が受け手となった場合、介護側の情報発信も「医療側が使いやすい形」が求められることになります。骨太の方針でも「医療と介護の情報共有」のために「介護情報の標準化」が明記されています。

仮に、医療側に渡すべき情報の標準化が進むとなれば、それを基準上で規定したり、LIFEに関連した加算の新要件として定める可能性もあります。ひいては、ケアプラン上に記載する情報の標準化も視野に入ってくるかもしれません。来年の骨太の方針でどこまで踏み込んでくるのか、注意が必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。