ケアマネ処遇改善、どこで図る?

f:id:testcaremane:20210806142702j:plain

介護給付費分科会(介護事業経営調査委員会)で、2021年度の介護従事者の処遇状況等調査が行われます。ただし、そこではケアマネの処遇状況は含まれていません。ケアマネ不足が深刻化する中、その処遇改善は避けて通れないテーマです。今後どのような対応が予測される、もしくは望まれるでしょうか。

2020年2月時点のケアマネ給与を再確認

介護従事者の処遇状況等調査については、2018年度調査まで調査対象に居宅介護支援事業所も含まれていました。ところが、2020年度調査からは外されています。職種別の給与額状況などの中にはケアマネも含まれていますが、その対象はあくまで施設および居住系に勤務する者にとどまることになります。

その代わり、2020年度については「居宅介護支援における業務負担等に関する調査研究事業」(老人保健健康増進等事業)の中で、ケアマネ等の処遇状況調査の結果が示されています。調査事業所数は1,012件なので、先の処遇状況等調査での特養ホームや通所介護事業所の回収数とほぼ同じです。一応、比較はできる数字と考えていいでしょう。

そのケアマネの処遇状況を改めて確認すると、2020年2月時点の月額平均給与(月給・常勤の者)は、33万660円。2019年2月時点の32万5,230円から5,430円の増加となっています。ちなみに基本給額は2020年2月時点で22万1,300円。2019年2月時点の21万8,790円から2,510円増加しています。

特定加算の恩恵から外された居宅介護支援

気になるのは、2020年度の介護従事者処遇等状況における「居宅介護支援が調査対象になっていない(施設系・居住系)のケアマネ」の状況(介護職員処遇改善加算I~Vを取得していた事業所が対象)との比較です。

それによれば、2020年2月時点の平均給与額(月給・常勤の者)は35万7,850円で、居宅介護支援のケアマネより3万2,620円高くなっています。2019年2月からの伸びも1万390円で、居宅介護支援を対象とした調査と比較して倍の開きがあります。

ちなみに、対象事業所の中には介護職員等特定処遇改善加算(以下、特定加算)を取得している事業所も含まれています。特定加算を取得していないケースでは33万9,410円なので、それでも居宅介護支援事業所よりは高いものの、(誤差の範囲ととらえれば)ほぼ同じ水準と考えていいでしょう。

これを見る限り、特定加算の効果はそれなりに高いことが分かります。逆に言えば、特定加算を取得できない独立型事業所との間で、給与額の格差が開きつつあるともいえます。その点では、独立型を中心とした居宅介護支援事業所全般に向け、特定加算に相応するしくみが改めて求められることになりそうです。

処遇改善策をいかに「基本給」に反映させる?

実は、今回の比較でもう一つ気になる点があります。それは、ケアマネの基本給額です。先に述べたように、居宅介護支援事業所を対象にした調査では22万1,300円。対して介護従事者処遇状況等調査では、21万6,780円と4,520円低くなっています。月平均給与額との間で逆転現象が起きているわけです。

明らかに、処遇改善加算(特定加算含む)の給与への反映が各種手当や一時金に偏っていることが分かります。このことを明確に示すデータもあります。介護従事者の平均給与額の内訳について2019年2月から1年後の伸びを比較したもので、「手当」が8,000円台、「一時金(賞与等)」が約4,500円に対し、「基本給」は3,000円台にとどまります。

つまり、特定加算が導入された後でも、依然として「基本給」への反映は主流となっていないわけです。介護従事者の継続的な職業人生を後押しするという点では、まだまだ課題の多さが目立つことになります。

皮肉なことに、居宅介護支援事業所のケアマネに関して「基本給」での逆転現象が起きているという点では、新加算に期待するだけでは、ケアマネの処遇改善にかかる課題はなかなか解決しないことがうかがえます。

特定事業所加算Aの引き上げが一つの焦点に

すべての介護従事者の中でも、特にケアマネは「利用者への継続的なマネジメント」が要される職種です。介護版「かかりつけ医」と言っていいでしょう。その点で、その時々の介護報酬の全体像などに左右されにくい給与体系が求められます。基本給をいかに底上げするかが土台として求められるわけです。

もちろん、他の介護職種にも多かれ少なかれ求められることではあります。しかし、一定の介護キャリアの頂点に立つ職種として、「環境変化に左右されない処遇の安定性」をインセンティブとすることが、特にケアマネ不足の時代には必要になるはずです。

その点を考えたとき、できるだけ基本報酬への上乗せに近い処遇改善策が求められます。着目したいのは、たとえば算定要件が緩和された特定事業所加算の新区分(A)でしょう。ここに、所属するケアマネの昇給要件の明確化などの要件を加えたうえで、処遇改善に資する単位数の上乗せ(たとえば月300単位ほどを一つの目安に)を図るという具合です。

もちろん、他にもやり方はあるかもしれません。ただ、まったくの新加算によって事業所の算定実務を大幅に増やすよりは、現実的な対応ではないでしょうか。いずれにしても早期に案を出し、職能団体等とのキャッチボールができる時間的余裕がほしいところです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。