保険外支援拡大でケアマネ実務は?

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国が掲げる地域包括ケアシステムでは、介護保険外サービスの活用も大きなテーマとなっています。課題となるのが、ケアマネジメントの位置づけです。「保険外サービス活用推進に関する調査研究事業」(老人保健健康増進等事業)の報告書が公表されましたが、注意したいポイントはどこにあるのでしょうか。

プラン要領の改定では保険外サービス明記も

報告書を取り上げる前に、今年3月に示されたケアプラン様式の一部改定に着目します。改定された2表の「サービス内容」の記載要領では、「必要に応じて保険給付外対象サービスを明記する」ことが追記されました。また、「できるだけ」という文言が削除され、保険外サービスの位置づけをスタンダードなものにしていく意図もうかがえます。

ケアプラン記載の要領がこのように改編されたということは、保険者によるケアプランチェックや実地指導でも、「保険外サービスの活用に向けたケアマネジメントのあり方」への視点が強化されることは間違いないでしょう。この点を頭に入れたうえで、今回の調査結果に目を通してみましょう。

新型コロナで保険外サービス相談も急増中?

まず、相談・対応の内容ごとに「実際にケアマネが対応しているか否か」に注目します。それによれば、「冠婚葬祭、墓参り等の付き添い」や「預貯金の引き出し」、「金銭の預かり・金銭管理」以外は、「対応することがある」が「対応しない」を上回っています。親族内の特別なイベントや金銭に絡む直接支援を除けば、かなりの部分で保険外サポートへの踏み込みが常態化しつつあるといえます。

ちなみに、2019年に実施された調査(2018年度介護報酬改定の影響に関する調査研究)と比べて、保険外サポートへのかかわりの機会が増している印象があります。その後の新型コロナ禍で「本来、本人・家族自らで行なっていること」が制限されたり、世帯内の困りごとが増え、それがケアマネジメントのあり方にも影響を与えているのかもしれません。

いずれにしても、利用者世帯の生活様式がコロナ前になかなか戻れないとなれば、ケアマネジメントにおける保険外サポートの比重はこれからも増える可能性がありそうです。

訪問・電話対応の頻度・時間も増えていく…

今後、「ケアマネジメントにおける保険外サポートの比重」がさらに高まるとします。当然、ケアマネに求められる実務量は止めどなく増えてしまう懸念が生じます。

その点を考えれば、保険外サポートを含めた実務範囲のうち、「あいまいになりがちな部分」について、基準上でさらに明確にしていくことが必要です。今回の調査は、そうした基準上の「線引き」を議論するためのたたき台の一つととらえていいでしょう。

そのうえで注意したいのは、今調査内でケアマネ側と保険者側で微妙な「認識上のズレ」が見られることです。たとえば、「通常の頻度を大きく超える利用者宅の訪問」や「見守り・緊急駆けつけに相当するようなサポート」、「高頻度・長時間の電話対応」。いずれも、ケアマネにとって「負担感が大きい」とする割合が高いものです。この負担感には、「利用者との関係性を考えると、求められたら断れない」という圧迫感なども含まれるでしょう。

この3つについて、ケアマネ側の見立てで「保険者は『通常業務の範囲ではない』と考えている(だろう)」という割合と比較すると、実際に保険者が「通常業務の範囲ではない」と考えている割合はいずれも倍以上にのぼっています。ケアマネ側が考える以上に、保険者側は「通常業務」と見ていないわけです。

これからは「現場任せ」では済まない状況も

このあたりは、「ケアマネ側と保険者側の認識のズレ」にとどまる話ではありません。確かに保険者側の「通常業務の範囲ではない」と断じている割合は高いのですが、「通常業務の範囲の場合もあると考えている」という回答も一定の割合を占めているからです。

もちろん、「ケースバイケースで、最後は現場判断に任せざるをえない」という迷いもあるでしょう。しかし、今後保険外サポートのニーズが拡大していくとして、先の(ケアマネが特に負担を感じる)3つは、いずれも付随的に増えざるを得ない実務といえます。「任せざるをえない」で済む話ではありません。

つまり、国が保険外サービス活用の推進を図ろうとするのなら、「ケアマネが調整する保険外サービスの範囲を整理する」だけでなく、「その過程で拡大しがちな負担」をケアマネ任せにしないしくみも求められるわけです。

たとえば、「通常の頻度を大きく超える訪問」や「頻回・長時間の電話対応」を強いられるケースでは、保険者や包括がサポートに入る旨を告示等で明確に規定する必要もあるでしょう。そのうえで、保険外サービス調整はチーム対応を原則とするなど、ケアマネ実務が際限なく増えるのを防がなければなりません。

仮にケアマネジメントへの利用者負担などが導入されれば、先に述べた新型コロナ禍の状況を相まって、利用者からケアマネへの要求ハードルは一気に高まりかねません。これは「利用者啓発」だけで防げる話ではなく、何らかの新体制の構築が必要です。保険外サービスの拡大は、現場にさまざまなリスクをもたらす可能性を忘れてはならないでしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。