オンライン認知症支援の広がり

オンライン認知症支援の広がり

 

新型コロナウイルスの感染状況は、依然として予断を許しません。さまざまな生活上の制限が長期化する中、認知症の人とその家族の状況も厳しさを増しています。中核症状の進行やBPSDの悪化などのリスクも高まる中でのサポート強化が問われます。

新型コロナ禍で認知症をめぐる状況は?

昨年9月のことですが、新型コロナ感染症第2波の直後に「認知症の人と家族の会」が緊急webアンケートを行なっています。その時点で、コロナ禍での生活変化等によって「認知症の程度が進むなどの影響があった」という回答が5割に達していました。
「認知症の程度が進む」というのが、中核症状の進行を指すのか、BPSDの悪化を指すのかは不明です。もちろん、両方が同時に進むケースもあるでしょう。いずれにせよ、新型コロナ禍で、在宅における家族の介護負担が急速に高まっていることは間違いありません。

一方、そうした中での家族会の開催状況については、「まったく開催できていない」という回答が約4割。「オンラインを利用しての開催」も約2割ありますが、家でのネット環境の有無によって「参加できる家族・できない家族」で格差が生じている指摘もあります。

認知症カフェでのオンライン等の取り組み

本人の認知症の程度が進む一方で、家族会が思うように開催できないとなれば、家族の心身にかかる負担は相乗的に高まります。心ならずも本人に対する言動もきつくなる可能性もあり、それがさらに本人のBPSDを悪化させるという悪循環にもつながりかねません。

せめて、本人や家族にとって「気晴らし」につながる認知症カフェなどが利用できれば…となりますが、こちらも家族会と同様、定期的な開催が難しい状況が続いたり、今でも開催のめどが立たないケースも見られます。

そうした中、厚労省は今年に入って、認知症介護研究・研修センターが作成した「外出自粛時の認知症カフェ継続に向けた手引き」を公開しました。オンラインによる開催(オンラインを併用した開催も含む)のほか、広報誌や回覧板、手紙、電話などさまざまな手段を通じて、「つながりを感じてもらう」ための取り組みなども紹介されています。

課題は多いもののノウハウの蓄積は徐々に

もちろん、オンラインによる開催などには、さまざまな課題があります。本人がオンラインでのやり取りにどこまでなじめるか。参加者側の通信環境がどこまで整っているか。家族などもオンラインに慣れていない場合、誰がどのようにサポートするか──そのあたりのハードルに運営者が試行錯誤する様子は、手引き内の事例からも伝わります。

たとえば、本人に関心をもってもらうには、ただオンラインで会話するだけでなく、コンテンツなどを工夫する必要もあります。身近で通信サポーターとして寄り添う人の存在や、「オンライン参加」へとスムーズに誘導するためのノウハウを築くことも欠かせません。

いずれにしても、まずは「できる範囲」からやってみて、本人・家族の感想や運営側の振り返りをもとに、少しずつ改良を重ねていくことが重要になります。その地域の感染状況にもよりますが、一部でサテライト会場を設けつつ、対面とオンラインを組み合わせるなどのやり方も見られます。。

本人がどこまでなじめるかといった課題は残りますが、海外では「認知症の人同士がオンラインでやり取りを行なっている」といった例も紹介されています。認知症の本人同士によるピア活動なども進められる中、そこにオンラインのしくみを絡ませることができるかどうかも考えたいテーマの一つでしょう。

サ担会議のオンライン化なども進む中で…

注目したいのは、一部の自治体による「リモート認知症カフェ応援事業」などのサポートも少しずつ広がっていることです。たとえば、本人・家族に対してタブレット端末を無償で貸し出すなどの取り組みも見られます。これらは、認知症総合支援事業の一環となりますが、今後は一般財源も絡めつつ自治体独自のアイデアも問われてきます。

ちなみに、介護保険では、サ担会議も(利用者の承諾を得たうえで)オンラインでの開催がOKとなりました。ただし、実際にオンライン開催を拡大していくとなれば、利用者世帯における接続環境の整備やタブレット貸し出しなど、インフラ面でのサポートも欠かせなくなってくるでしょう。

つまり、上記のような認知症カフェ等におけるオンライン開催を含め、介護保険事業計画全体の中で「オンライン環境の整備」をいかに総合的に図っていくかが重要になるわけです。「人によるサポート」という点で言うなら、たとえばオンラインによるサ担会議で、利用者・家族に寄り添いつつの参加サポートをケアマネだけが担うという状況でいいのかどうかなども考えるべき課題でしょう。

これから先、「対面だけでOK」の環境が戻ってくるかどうかは見通せません。国として社会のリモート化が重要と考えるなら、多様な施策の枠を超えた「インフラ面での後押し」はますます欠かせないでしょう。介護現場としても、先の認知症カフェの取り組みなどともコラボしながら、新たな利用者支援のビジョンを見すえることが必要になりそうです。

・参考:外出自粛時の 認知症カフェ継続に向けた手引き

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。