誤解なき「手引き」活用のために

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「『適切なケアマネジメント手法』の手引き」(老人保健健康増進等事業・日本総研)が公表されました。2016年の「ニッポン一億総活躍プラン」で示された「適切なケアマネジメント手法の策定」から始まったものです。この手引きにより、今後のケアマネジメントにどのような影響がおよぶのでしょうか。

今回の手引きが生まれた背景とは何か?

入口となる「ニッポン一億総活躍プラン(以下、総活躍プラン)」では、以下のような課題が提起されていました。それは、ケアマネの力量によって「ケアマネジメントのアプローチ方法に差異が生じている」というものです。

何が差異を生じさせているのでしょうか。総活躍プランによれば、「個々のケアマネの属人的(担当する人の経験や考え方に左右される)な認識・知識」であるとしています。

これを改めるために、「支援内容の平準化を図る」ことが目指されました。具体的には、利用者の状態ごとに「最低限検討すべき支援内容」について、認識・知識の体系化・共有化を図るというものです。

この目標を受け、厚労省は2016年度から、主に疾患別の「必要性を検討すべき支援内容の体系化」に向けた取り組みを進めました。体系化された内容は、今手引きで「生活の基盤を整えるための基礎的な視点」と「疾患別に想定すべき支援内容」に反映されています。

「ケアプランの標準化ではない」と強調

注意したいのは、上記の取り組みが「ケアマネジメント手法の標準化事業」と名付けられていたことです。そのため、「ケアプランの標準化」と誤解されがちでした。つまり、想定すべき支援内容が体系化されているなら、「利用者にどんな疾患があるか」によってケアプランは同じになる──という考え方です。

この誤解を避けるため、今回の手引きでは、わざわざ「『ケアプランの標準化』ではない」と題したコラムを掲載しています。

そこでは、「本人のニーズや具体的な支援内容は極めて多様・多彩であるため、ケアプランは一人ひとりに個別的です」とことわったうえで、以下のように述べています。

それは、「(この手引きが目指しているのは)どの介護支援専門員が担当しても、本人から見て一定の水準のケアマネジメントを提供できるようになることであり、そのために仮説をもって情報収集・分析できるようになること」が求められるというものです。

なお、このコラム内では、「適切なケアマネジメント手法(つまり、一定の水準のケアマネジメント)」を土台とすることで、初めて「個別性の高いケアプランを作りやすくなる」という趣旨の図も添えています。

「疾患別ケア」に焦点が当たってしまう懸念

ケアマネにしてみれば、「言われなくても分かっている」と思うかもしれません。ただし、「ケアプランの標準化」という誤解は、ケアマネ側の問題だけではありません。多職種・多機関連携の中で、ケアマネに向けて「標準化」のプレッシャーがかかる場面もあります。

たとえば、医療職が主導する退院時のカンファレンスや行政担当者も参加する地域ケア会議などでは、「疾患別に想定される支援内容」が「まずありき」となるケースも想定されます。「疾患別ケア」が広く共有事項となることで、「それこそがケアマネジメントの基本」という誤解がかえって強まってしまうわけです。

もちろん、今回の手引きをよく読めば、もっとも大きな土台となっているのは「本人の有する疾患に関係なく、高齢者の機能や生理を踏まえた基本ケア」です。その土台が整えられたうえで、「疾患別に想定される支援内容」を押さえるという構図になっています。

しかし、多職種の中には、そうした構図に対する理解が乏しい人も少なくありません。たとえば、「疾患別ケア」の中には「生活機能や社会参加の回復」、あるいは「自己管理能力の向上やセルフマネジメント(自助・互助)への移行」などの項目も目立ちます。この部分に焦点が当たり過ぎると、本人の意思に沿わない「やってもらわなくては…」的なプレッシャーが高まる恐れもあります。

今改定で「誤解」が広がる土壌も見られる

今改定では、区分支給限度基準の利用割合が高いケアプランなどの保険者届出が強化されました。ケアプラン検証に際して、地域ケア会議だけでなくサ担会議に行政職員などを派遣して行なうスタイルも可能になります。

さらに、自立支援強化の中で、リハビリ計画や個別機能訓練計画内において、利用者の「活動・参加」や「セルフマネジメント」をクローズアップする動きも目立っています。医療職にも「社会的処方(地域の多様な支援につなげる取り組み)」という、新たな考え方を求める流れが強化されています。

そうした中で、今回の手引きの一部だけが強調されてしまうと、ケアマネ側の「個別性が重要」という認識との間で新たな溝が生まれかねません。ローカルルール的な話で言えば、保険者の実地指導等でも「手引きの誤った使い方」がまん延する懸念もあります。

その点を考えれば、「誤解しないで」というアピールは、ケアマネ以外にも広く継続的に行なう必要がありそうです。ケアマネ実務には、組織内外で日々さまざまなバイアスがかかりやすい点に注意を払う必要があります。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。