改めて「同意署名」の規定を整理

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2021年度の基準改定で、現場の解釈が未だに錯そうしているものの一つに「利用者の各種同意にかかる署名・押印」があげられます。たとえば、押印は不要として署名はどうなのか。代替え手段はどうすればいいのか。もう一度確認しておきましょう。

規制改革推進会議で示された対応済み事項

まず、契約書、ケアプラン、重要事項説明書、運営規程などについてですが、厚労省が規制改革推進会議で示した「2021年4月に対応済み」とした内容を確認します。「ケアプランや重要事項説明書等における利用者の説明・同意」に関して「利用者等の署名・押印」を「求めないことが可能」というものです。

これについては、一部の自治体でも現場向けに通知を出しています。その多くは、昨年6月に内閣府・法務省・経済産業省が出した「押印についてのQ&A」から、以下の一文を取り上げています。「私法(民事訴訟法等)上、契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面の作成およびその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない」というものです。

つまり、契約書や重要事項説明書における利用者からの「押印は不要」となります。ただし、自治体通知の中には、「契約に際しての利用者の心情等も考慮し、柔軟に対応する」旨を求めているものもあります。署名・押印を「禁止している」ものではないので、利用者とのやり取りの流れで「署名・押印をもらっても構わない」としているわけです。

新たな説明責任に関しては「署名」が必要

気になるのは、重要事項説明書にかかる署名でしょう。先の自治体通知に沿えば、重要事項説明書の同意で「署名・押印は必要ない」ことになります。ここで、居宅介護支援の基準第4条の「内容および手続きの説明および同意」についての留意事項を確認しましょう。

今改定で、利用者への説明責任に「ケアプランに位置づけたサービスや特定の事業所の割合」がプラスされました。利用者がこれを理解したことについて、留意事項では「必ず署名をもらなければならない」としています。また、2018年度改定で定められた説明責任にかかる「署名」についても、「もらわなければならない」の記載に変更はありません。

注意したいのは、第4条のうち、「署名をもらわなければならない」としているのは、前・今改定の「利用者への説明」に際しての同意に関する項だということです。それ以外の重要事項については、「書面によって確認することが望ましい」とだけ記されています。

結果として他の重要事項でも同意署名が⁉

ややこしいのは、「書面による確認」です。留意事項では、利用者および居宅介護支援事業者の「双方の保護の立場から書面によって確認する」としています。「書面による確認」の中に、「利用者の書面上の署名」が含まれるのかどうか、これだけでは判然としません。

はっきりしているのは、先の説明責任にかかる留意事項では「文書の交付に加えて口頭での説明」を求めていることです。この場合の「文書」が先の「書面」と同列で扱われるのか否かは不明ですが、今改定の「特定事業所の割合」にかかる疑義解釈(vol.3)では「重要事項説明書等に(別紙として)記載する」ことが考えられるとしています。

となれば、重要事項説明書をもって説明した文書に「署名をもらう」ことになります。結果として、「運営規程、その他の重要事項を示した文書(第4条要約)」において、利用者による同意署名が生じることになります。

もっと分かりやすいガイドラインが必要では

さて、今改定では、基準上の交付、説明、同意を「書面で行なうこと」が規定・想定されるものについて、利用者の同意を得て「電磁的方法によることができる」とされました。

タブレット上での提示などが考えられるわけですが、留意事項では「電磁的方法による同意は、たとえば電子メールにより利用者等が同意の意思表示をした場合等が考えられる」としています。つまり、電子メールにpdf等をデータ添付し、それを利用者が(別経路で伝達したパスワード等で)確認したうえで、メール返信によって同意となるわけです。

しかし、前・今改定の説明責任が絡んでくる場合には、「署名をもらうこと」が必要となります。となれば、電子署名となるわけですが、留意事項上での電子署名は(契約)締結のケースにとどまっています。

もっとも、通常の解釈であれば、上記の説明責任にかかる同意も「電子署名で可能」ということになるでしょう。とはいえ、電子署名には電子証明書の発行などが必要で、ITに馴染みの薄い人にはハードルが高いでしょう。「タブレット上の電子サインでもOKでは」という見方もできますが、そのあたりは改めて保険者に確認する必要もありそうです。

いずれにしても、ローカルルールなども生じやすくなりがちで、ケアマネとしては「利用者同意」にかかる支援経過記録等での詳細な記載なども必要となりかねません。そうなると、今改定が本当に現場の業務負担軽減につながるものなのかという疑念も生じるでしょう。今後、現場視点に立った分かりやすいガイドライン提示なども必要になりそうです。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。