LIFEフィードバックの活用と課題

f:id:testcaremane:20210727123045j:plain

今年4月から、新たなデータベースLIFEが稼働しています。運営サイトの告知によれば、6月上旬からLIFEからの初回フィードバックもスタートします。このフィードバックを現場としてどのように活かせばいいのか、課題はどこにあるかなどを掘り下げます。

LIFEからのフィードバック票は2種類

まず、LIFEからのフィードバックについて、改めて整理しておきましょう。

科学的介護の関連加算では、算定要件としてLIFEへのデータ提供を求めています。そこで収集されたデータをLIFEが集計・分析し、現場へのフィードバックを行ないます。

このフィードバックは「フィードバック票」として提供されますが、このフィードバック票には2種類あります。(1)事業所フィードバック票と、(2)利用者フィードバック票です。

(1)は、データ提供した事業所・施設の利用者全体の状態を分析したもので、過去からの時系列の変化や他の事業所・施設と比較・検討できる形で提供される帳票です。

(2)は、その事業所・施設の利用者個別の状態を分析したもので、やはり時系列の変化のほか、要介護度などが同程度の他の利用者との比較・検討ができる形で提供されます。

多角的な視点で課題分析を進めるきっかけに

(1)では、自事業所・施設における利用者の状態やケア環境などの特性を把握し、サービス提供の改善などに活かすことになります。(2)では、その利用者のケアの目標達成状況などを把握することで、目標や支援内容の見直しに向けてデータを活用する流れとなります。

(1)を例にとれば、自事業所の利用者の状態が全体でどうなっているかを把握することができます。これまで、要介護度の平均値などは事業所ごとに算出するケースもあったでしょう。しかし、ADLや栄養、口腔といった機能ごとの状況となると、独自に分析するといった機会は限られていたと思われます。

こうした分析結果について、LIFEからフィードバックが受けられることになったわけです。たとえば、事業所・施設の利用者全体で時系列での栄養状況の悪化が認められたとすれば、そこにどんな課題があるのかを探るきっかけとなります。仮に、現場の体制やケアのあり方に構造的な課題が潜んでいるとして、それに気づくことにもつながるわけです。

また、複数のフィードバックデータを照らし合わせることで、分析の範囲も広がります。たとえばADLや栄養、認知症の各時系列の変化に関連が認められれば、「どの分野のケア」が「利用者のどの状態」に影響を与えているかを広く把握する手がかりにもなります。

ケアマネとしてどのように向き合うか?

ケアマネとしても、担当事業所との連携する中で、フィードバックデータが活かせる場面もあるでしょう。たとえば、(2)で特定の利用者の時系列データを担当事業所と共有できれば、ケアプラン上で設定した目標の「進ちょく状況」などが把握しやすくなります。

モニタリングに際して、利用者や担当者へのヒアリング、実地の観察などが中心になっていたケースもあると思われます。そこにLIFEのフィードバックデータが加わることで、課題分析の視野を広げることができるかもしれません。新型コロナ禍でモニタリング機会が十分に取れないといった状況もある中では、ケアマネとしても「LIFEデータをどう活かすか」がカギとなる場面も増えそうです。

「利用者の思い」など主観的情報との関連

ただし、注意したいことがあります。LIFEに提供されるデータは、加算上で提示要件となっている計画書等の項目のすべてではないことです。担当事業所で作成する計画書の全体に目を通さないと、フィードバックされた分析情報だけに目を奪われる懸念もあります。

たとえば、通所介護等の個別機能訓練加算(LIFE提供が要件となっているのはll)の計画書では、利用者・家族の希望や本人の社会参加の状況などを記す欄があります。しかし、この部分はLIFE提供の必須項目ではありません。また、利用者の生活観の把握等に使われる「興味・関心チェックシート」も、現状での提出は任意となっています。

いずれにしても、担当事業所で「利用者の思い」などを記す部分はあるわけです。これらの情報にも目を通しつつ、フィードバックされたデータとの関連性を探ることも欠かせません。このあたりは(利用者の意向変化に寄り添う機会の多い)ケアマネの方が課題の本質に気づく可能性が高いこともあります。

ここで実際の計画作成者である担当者に、フィードバックデータとの関連性も含めてアドバイスできれば、ケアマネとサービス担当者との連携の質も高まることが期待できます。

新型コロナ禍での全国データをどう見る?

もう一つ注意したいのは、今のタイミングでは新型コロナ禍でのサービス制限や利用者の意欲低下、事業所の体制上の不安など、現場の自立支援に向けてさまざまなバイアスが働きやすいことです。そうした中で、たとえば全国平均等のデータが感染状況等によって大きく変動する可能性もあるでしょう。

この点については、国側で「フィードバック票の提供」に際して、注意点等の注釈をつけていく必要もありそうです。場合によっては、再び科学的介護にかかる検討会を開催し、「新型コロナ禍でのデータの取り扱い」について精査することも求められるでしょう。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。