ケアマネへのハラスメント実態は?

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介護従事者へのハラスメント対策では、今基準改定で事業所の取り組みが明確化されました。ただし、利用者・家族によるハラスメントへの対策は「推奨」にとどまっています。社会状況も頭に入れつつ、これから追加的にどのような施策が必要になるのでしょうか。

居宅介護支援でのハラスメントは1割台⁉

厚労省は、老人保健健康等増進事業の一環として、「ハラスメントへの対応に関する調査研究」を公表しました。調査の実施は、2020年10~11月。新型コロナの感染拡大との関係では、第3波の影響が出始めた時期です。

まず、調査時からさかのぼって過去1年の間の「ハラスメントの発生の有無」を見てみると、サービス種によって差が認められます。「発生あり」の割合がもっとも高いのは訪問看護(42.0%)、次いで特定施設入居者生活介護(38.5%)となっています。

逆にもっとも少ないのは、認知症対応型通所介護の17.6%で、その次が居宅介護支援の17.8%。母数の多い通所介護(地域密着型含む)も26.4%にとどまります。

ちなみに、2018年にも同様の調査が行われています。その時は「ハラスメントを受けた職員割合」だったので一概に比較はできませんが、少なくとも通所介護系では訪問看護とほぼ同等の数字となっていました。

利用者との継続的な関係上、表に出しづらい

今回の調査から、たとえば以下のようなことも考えられるでしょう。「新型コロナ禍によって通所系の利用控え等が生じた」→「訪問系サービスに利用者側の多様な不満が向かっている」といった状況です。

では、居宅介護支援で少ないのはなぜでしょうか。この場合の「発生事例」は事業所が把握しているだけであって、水面下では「もっと多い」ことも想定されます。

というのは、同調査で「法人におけるハラスメントに関する相談窓口の設置状況」を見ると、「窓口はなく、設置する予定もない」という割合が全サービス中、居宅介護支援事業所でトップ(28.5%)となっているからです。つまり、法人内の相談体制の未整備が、事案を潜在化させている可能性があるわけです。

また、居宅介護支援の場合、「1人ケアマネなど小規模事業所も多く、窓口整備に至らない」とか「利用者や家族との継続的な関係が要される中で、なかなか表に出しづらい」といった事情なども考えられます。

事実、今調査の「ハラスメント予防・対策を実施するうえでの問題点」を質問した項目では、「利用者との関係構築との兼ね合いが難しい」という回答が、居宅介護支援で28.1%におよんでいます。これは、全サービス中、特定施設入居者生活介護と並んでトップです。

事例集で紹介された「ケアマネへの暴言」

こうした背景を頭に入れた場合、ハラスメント対策を各事業所・法人の取り組み中心で進めていくのは、特に居宅介護支援においては限界があると考えていいでしょう。

厚労省は、今回の調査研究と同時に「事例集」を公表しています。その中でケアマネにかかる事例として、「家族によるケアマネへの暴言」のケースが紹介されています。

事例の内容は、利用者と同居する子どもが、本人の認知症の進行とともに引きこもりがちとなり、ネグレクトが疑われる状況も認められたというものです。やがて、その子どもから「ケアの専門家なら認知症を改善させろ」「責任の所在を明らかにしろ」と、恐怖を感じるほど怒鳴られる場面も増えていきます。

結局、親族からの区分変更申請の申し出を機に包括が介入し、ケアマネと同行訪問することに。最終的には包括と事業者が協議し、担当事業者の変更に至りました。

このケースでは、状況の悪化後に包括が介入したわけですが、「利用者の認知症悪化」とともに「家族の引きこもり傾向」や「ネグレクトの疑い」が生じた時点で、(担当ケアマネだけでなく)事業所としての組織的なかかわりの強化が求められたケースといえます。

ところが、ようやく担当変更に至ったのは、「区分変更申請の申し出」による包括の介入があってからです。状況が悪化するまで「担当ケアマネ任せ」にされ、ハラスメント予兆からの組織的な早期対処に踏み切れない──小規模事業所を中心にこうしたケースはかなり多いのではないかと推察されます。

新型コロナ禍の利用者状況の変化にも注意

国としては、「運営基準上でのハラスメント対策の明確化」や、地域医療介護総合確保基金を活用した「ハラスメント対策推進事業」などを推進しています。しかし、早期からの行政や包括などを交えた対応としては、利用者へのリーフレット配布や一部の地域ケア会議での事例共有などにとどまります。

新型コロナ禍での生活行動の自粛やサービスの利用控え・制限などにより、利用者世帯が孤立化したり、社会に対する不満・不信が蓄積しやすくなっています。そのはけ口が身近な支援者に向きがちになるという構造は、ケアマネなど特定の専門職だけでなく地域全体が課題として向き合わなければなりません。

国や行政としては、(業務過多の)包括だけでなく、「継続的・包括的に介護現場をフォローする常設機関」を別途整えていくことが必要な時期に入っているのではないでしょうか。

・参考:介護現場におけるハラスメントへの対応に関する調査研究事業 報告書(調査研究)

・参考:介護現場におけるハラスメントへの対応に関する調査研究事業 報告書(事例集)

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。