伴走型支援、望まれる制度設計

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2021年度より、国の認知症総合戦略推進事業の一環として「認知症伴走型支援事業」がスタートしました。認知症GHなどを活用し、地域の認知症の人と家族のための「伴走型支援の拠点」を整備するというものです。その効果的な運営に向けた課題に焦点をあてます。

認知症施策推進大綱にも掲げられた「伴走者」

「伴走型支援」と聞いて、まず思いつくのが2020年の社会福祉法改正で誕生した「重層的支援体制整備事業」でしょう。この事業の枠組みを議論した地域共生社会推進検討会(2019年)の取りまとめで、「暮らし全体と人生の時間軸をとらえ、本人と支援者が継続的につながり続けるための相談支援」のあり方として「伴走型支援」が掲げられています。

この考え方は、やはり2019年に策定の「認知症施策推進大綱」にも反映されました。それは、認知症医療・介護等にかかわる人々に対し、「地域社会の中で本人のなじみの暮らし方やなじみの関係が継続できるよう、『伴走者』として支援していくことが重要」というビジョンです。そのうえで、自治体の取組みとして「断らない相談、伴走型支援を行なう包括的な支援体制」を求めています。

この枠組みで予算を確保し、事業化したのが今回の認知症伴走型支援事業となります。

「リンクワーカー」との比較で考えると…

ここで、注意したい点があります。

たとえば、「伴走型支援」という名称から、どのような事業イメージを抱くでしょうか。恐らくは、(1)初期相談(あるいは包括等からの相談ケース)を受け取った後、(2)認知症の人やその家族のための精神的支援を行ないつつ、(3)暮らしを整えるためのサービス資源(介護保険サービス等)につなぎ、(4)サービスにつながった後も必要に応じた支援を継続する─といった流れでしょう。

どちらかというと、認知症の人と家族の会が提唱するリンクワーカー(スコットランド発祥のしくみで、同制度を参考にした人材養成が京都府で進んでいる)に近いかもしれません。今回の認知症伴走型支援事業に関しても、日本認知症GH協会が作成したマニュアルでは、おおむね同様の流れを示しています。

ところが、今回厚労省が示した「事業の具体的な取組例」を見ると、上記の(1)、(2)の取り組みは示されているのですが、(3)、(4)についてはぼんやりとしたままです。また、(1)については、やはり国が進める認知症初期集中支援チームとどのように連携を取るのかが大きなカギとなりますが、この関係性についても明確には位置づけられていません。

自治体・法人と現場の間に生じがちな「溝」

気になるのは、上記のポイントをあいまいにしたまま、「本人の生きがいにつながるよう支援や専門職ならではの日常生活上の工夫等の助言」や「家族の精神的・身体的負担軽減につながるような効果的な介護方法や介護に対する不安解消にかかる助言」などを進めようとしている点です。

こうした助言というのは、「本人視点」の尊重もさることながら、「その認知症の原因疾患」や「BPSDに影響を与える(認知症以外の)疾患や治療の状況」、そして「家族の心身や生活の状況」などを事前情報として正確に把握することも欠かせません。その点で、初期集中支援チーム(あるいは包括)からの情報の受け取りや(伴走しながらの)随時の更新のしくみを整えておくが必須となります。

もちろん、この事業にかかわる職員は、認知症介護指導者研修などの認知症にかかる専門研修を修了している人材が想定されています。そうした人材であれば、上記のような取り組みは「当然のこと」ではあるでしょう。

しかし、自治体や事業を受託する法人等が、そこまで想定しているでしょうか。法人から任命された事業担当者の想定する業務量と、自治体や法人側が考える業務量に誤差が生じれば、従事者に大きな負担を生みかねません。

たとえ認知症の「初期」で中核症状が「軽度」でも、家族の介護負担が軽い・本人の社会参加のハードルも低い──とは限らないのが認知症ケアです。このあたりについて、事業を手掛ける自治体の認識力が問われます。

伴走型なら「ケアマネにつなげた先」も重要

さらに、上記の(3)、(4)を想定した場合、本人と家族が地域とのつながりを築けるよう伴走型支援を進めるなら、たとえば「ケアマネ(あるいは居宅介護サービス)につなげたらおしまい」ではないはずです。

担当ケアマネに、それまでの支援経過記録(マニュアルに様式が示されています)を伝える。サ担会議にも参加して、本人・家族の意思表示をサポートする。サービス利用中の過ごし方や家族介護について、状況に応じたアドバイスを継続していく──これらができてこその「伴走型」ではないでしょうか。

認知症施策推進大綱での「本人のなじみの暮らし方やなじみの関係の継続」というビジョンは、言うほど簡単ではありません。まして、新型コロナ禍で認知症の人の社会参加機会が損なわれている現状では、さまざまな知恵の結集が必要です。億単位の予算を投入するのですから、実際の現場の動き方にも目配りしつつ精度の高い制度設計が求められます。