ヤングケアラー支援に必要な土台

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大きな社会的課題として注目されてきた「ヤングケアラー」の存在。厚労省は、ヤングケアラー支援に向けたプロジェクトチームを立ち上げ、報告書を取りまとめました。その中では、自治体やケアマネなど専門職への「支援に際しての周知」なども示されています。

ヤングケアラーを「介護力」と見てしまう⁉

ヤングケアラーの場合、発信力や社会的なつながりの機会が乏しい児童であるという点で、「誰にも相談できない」という状況下で課題が潜在化しがちです。仮に、医療や介護が必要な「家族」側に支援が届いていても、「ケアラー」自身が抱えている課題に光が当たりにくいことも指摘されています。

そのために、報告書では自治体による実態調査やアウトリーチによる相談支援、学校におけるヤングケアラーを把握する取り組みなどの方向性を示しました。

さらに、「家族」側の支援に入っている専門職が、ヤングケアラーを「介護力」と見てしまうという課題もあげています。この点について、報告書では以下のような方針を示しました。「子どもが主たる介護者となっている場合には、子どもを『介護力』とすることを前提とせず、居宅サービス等の利用について十分配意するなど(中略)地方自治体や関係団体に周知を行なう」というものです。

制度で「家族のかかわり」が明文化される中

ここで、ケアマネ等の専門職の中には、違和感をおぼえる人もいるかもしれません。それは、「子どもを『介護力』とすることを前提とせず」としながら、近年の介護保険制度上では「家族のかかわり」を明文化するケースが目立ちつつあるからです。

たとえば、通所介護等の個別機能訓練計画書の様式では、「利用者本人・家族等がサービス利用時間以外に実施すること」という項目が設けられました。入浴介助加算の新区分(ll)では、留意事項で「家族・訪問介護員等の介助」によって居宅で入浴できるようになることが目指されています(疑義解釈では、必ずしも「家での入浴」にこだわらない旨が示されましたが、当初の留意事項で明文化されたことは、「可能であれば目指す」という行政の指導根拠となる可能性は残ります)。

もちろん、こうした明文化が必ずしも「家族のかかわり」を強制するわけではありません。厚労省も、(生活援助のあり方などを頭に入れているのでしょうが)報告書の中で「既に介護者がいることをもって一律に居宅サービス等の対象外とはしないよう、自治体に通知している」としています。

しかし、省令や通知で随所に「家族の介護力」をあてにする文言が登場すれば、現場としては「家族を介護力として位置づけるか否か」の基準がどこにあるのか、自分たちの判断が本当に尊重されるのか──といった戸惑いを解消することはできないでしょう。

支援の本質より「通知解釈」が先に立つ懸念

そうした中、ヤングケアラーについては、今回の報告書で明確化された──のでしょうか。注意したいのは、報告書でもヤングケアラーについて「法令上の定義がない」としていることです。法令上の定義がないのであれば、法制化にむけたビジョンを示す必要があると思われますが、報告書で示されているのはあくまで通知等による周知にとどまります。

そうなると、たとえば「目の前の介護者は果たしてヤングケアラーなのか(それにより、アセスメントやケアプラン作成のあり方は変わるのか)」について、逐一通知を確認したり、行政と認識共有を図らざるを得ないでしょう。

懸念されるのは、それによって「専門職としての職業倫理や支援の本質」よりも「通知解釈」が先に立ってしまうことです。こうした現場のジレンマは、介護保険制度が複雑化するほど増えがちです。そうした状況が繰り返される可能性があるわけです。

やはり、介護者を包括的に支援する基本法を

たとえば、「ヤングケアラー支援の軸を固めるなら、児童福祉法の改正を」という考え方もあるでしょう。確かにそれも一理あります。しかし、「それなら他の介護者はどうなのか」という話になります。家族介護という中で心身に大きなダメージを受けやすい介護者は、ヤングケアラーに限った話でありません。

となれば、ヤングケアラーを含めた介護者を包括的に支援する制度を定めることが先決となるでしょう。当コーナーで何度も述べていますが、介護保険法とは別に介護者支援を目的とした基本法が必要になるわけです。

たとえば、今改定で現場のハラスメント対策が義務化されましたが、おおむね根拠となるのは労働施策総合推進法や男女雇用期間均等法です。そのために、ハラスメントの内容によって義務化の時期や範囲が異なるなど、現場には分かりにくい内容となっています。

こうしたしくみも、先の介護者支援の軸を定めた基本法(介護者の範囲を従事者まで広げる)ができれば、もっとすっきり整理できたのではないでしょうか。ヤングケアラー支援についても、専門職として「何をすべきか」は基本法の理念に基づいて明らかになるはずです。介護者支援を、通知解釈に追われる実務から一刻も早く脱皮させることが必要です。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。