コロナ禍でも進まぬ?ICT活用

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「居宅介護支援における業務負担等に関する調査研究事業(2020年度老人保健健康増進等事業・実施主体は三菱総合研究所)」の報告書が公表されました。内容は多岐にわたっていますが、この中から「サービス提供事業所や医療機関との連携」にかかるアンケートの結果に注目します。たとえば、現場のICT活用にかかる課題はどこにあるのでしょうか。

「対面」による連携が難しさを増す中で…

この報告書におけるアンケート調査(管理者要件や処遇状況にかかる調査を除く)は、2020年9~12月に実施されたものです。新型コロナの感染者・重症者数が再び右肩上がりとなり始めた時期であり、情報共有や合同研修会なども「対面」による方法がさらに難しさを増した状況下でもあるでしょう。

こうした背景も頭に入れつつ、サービス事業所や医療機関との連携にかかる業務負担の実態に着目してみましょう。 まず、対サービス事業所との情報共有ですが、「時間や労力がかかる」「迅速な応答が得られない場合がある」という回答がともに5割強。「担当者と連絡が取りにくい」「事業所から適時に情報が共有されない」も、4割強となっています(いずれも複数回答)。

一方、対医療機関では「時間や労力がかかる」という回答も一定程度見られますが、それ以上に多いのは以下のような内容です。「医療機関側に時間をとってもらうことが困難」「主治医とコミュニケーションを図ることが困難」(ともに対病院で約7割)という具合です。対サービス事業所では「迅速・適時の共有の困難さ」、対医療機関では「医師とのコミュニケーション上の問題」が大きいようです。

連携強化のための工夫はやはり「対面」重視

では、情報共有に向けて、現場ではどのような工夫を図っているのでしょうか。 新型コロナ禍ということもあり、「連絡に際してのICT活用」が促進されていると思われがちですが、アンケートでは「対サービス事業所」で7.5%、「対診療所」で5.6%。「対病院」では3.1%にすぎません。

むしろ具体方策で多いのは、対サービス事業所では「合同での勉強会や事例検討会等に参加し、関係構築に努めている」(25.3%)というもの。対医療機関では「利用者の受診時に同行し、主治医と面談している」が、対診療所で62.8%、対病院で58.6%にのぼります。

後者による情報共有については、ご存じのとおり2021年度改定で「通院時情報連携加算」として評価されることとなりました。今アンケートの実施は改定前ですが、現場のケアマネとしては「力を入れていた方法が報酬上で評価された」ことになります。

とはいえ、対サービス事業所も対医療機関も、手段としては「対面」が原則となります。新型コロナ禍では、連携方法として制限されるケースも多いでしょう。特に、前者の勉強会や事例検討会については、オンラインが主流となる中で「場を活用しての関係構築」となればハードルは高いと思われます。

そもそも法人がICT化に取り組んでいない

やはりポイントの一つは「ICTの活用」となりそうですが、先に述べたように「情報共有の工夫上」の選択肢としては弱いようです。

実際、対サービス事業所との情報共有に際して「どこまでICTを活用しているか」という項目を見ると、たとえば「ケアプランの交付と個別援助計画の受け取り」で「ICTを活用していない」が76.6%にのぼります。「アセスメント情報のやりとり」に至っては、79.4%が「ICT未活用」となっています。

では、なぜICTを活用していないのでしょか。その理由を尋ねると、「法人がICT化に取り組んでいない」(約6割)「(連携相手の)事業所側がICTに対応していない」(約5割)が多くを占めています。相手側の事業所よりも、自法人側の事情が壁となっているケースが多いという状況が浮かんできます。

その「取り組んでいない」の理由ですが、ICTの「導入コストがかかる」(約6割)や「維持・保守のためのコストがかかる」(約5割)という回答が目立ちます。

国は「ICT導入支援事業」の適用範囲を広げたり補助率を上げていますが、今後は「コストの中身(たとえば、活用に向けた人材育成コストなど)」を精査しつつ、現場の声を反映した制度の再設計も望まれそうです。

ICT化を前提とした負担軽減には注意が必要

さて、以上の点からも分かるとおり、今回の報告書で大きなポイントの一つとなるのは、「新型コロナ禍でも現場のICT活用はなかなか進んでいない」という点です。

たとえば、ZOOMによる研修などは今では当たり前と思われがちですが、実際は「事業所のPCではなく個人のスマホで参加」というケースも多いという話はよく聞くところです。

こうした実情にしっかり寄り添わず、「ICT活用」を前提とした業務負担の軽減が議論されてしまうと、施策と現場の間の溝は深まりかねません。

今回の報告書は、現場の業務負担軽減に向けた施策の方向性について、「仕切り直しも視野に入れるべき」ことまで暗に示していると言えそうです。

・関連:厚労省通知Vol.977

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。