保険料UP+2.5%をどう見るか?

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第8期計画期間の第一号介護保険料の月額平均が公表されました。2021年度からの3年間に適用される基準額の平均です。それによれば、月額6,040円と初めて6,000円台に達しています。一方で、第7期からの伸び率としては+2.5%と小幅にとどまりました。これをどう受け止めればいいでしょうか。

そもそも一号保険料はどうやって決まる?

まず、一号保険料(65歳以上の人が負担する保険料)がどのように定められるのかについて、改めて確認しまししょう。

ベースとなるのは、これから3年間(第8期)に、その保険者(市区町村)で必要となるサービス給付費の推計です。これは、直近3年で要介護認定者数やサービスの利用率がどうなっているか、それによってどれだけのサービス費用が必要かをもとにした推計です。

この推計(見込み額)をもとに、介護保険財源における一号被保険者の負担割合(23%)をかけて、必要な保険料収納額を算出します。

ただし、ここから国による調整交付金や介護給付費支払準備基金(準備基金)からの取り崩し分を差し引きます。準備基金というのは、それまでの介護保険料の余剰金を積み立てたもので、給付財源にあてるべく自治体条例にもとづいて取り崩すことができます。

意外にも「報酬改定」とは連動していない?

さて、必要となる保険料収納額(直近3年間の保険料収納率を加味)が算定されたら、1号保険者の数(所得段階別加入者割合によって補正した数)で割ります。これが、その保険者が設定する保険料基準額となります。

上記を見ても分かるとおり、「高齢者が増える」、あるいは「要介護者が増える」ことで単純に保険料が上がるわけではありません。

思い浮かぶのは、保険料水準を左右するのは、要介護者が増えた分のニーズに対応するだけの「サービス資源」が確保されているかどうか──という点でしょう。サービス拡充のためには、(人材確保等に向けた)それなりの報酬設定が必要です。つまり、介護報酬の伸び率に連動して保険料が上がっていくというのが自然な見方となるわけです。

ところが、過去の1号保険料のアップ幅を見ると、「意外にも報酬改定とはあまり連動していない」という状況も浮かんできます。

アップが抑えられたのは介護予防の効果?

たとえば、保険料の伸び率がもっとも高かったのは、第3期(2006~08年度)で+24%。今回の伸び率の10倍にものぼります。そして、この2006年度の介護報酬改定では-2.4%(2005年10月の施設給付見直し含む)という最大の引き下げとなりました。

一方、保険料の伸び率がもっとも低かったのは、第4期(2009~2011年度)の+1.7%です。そして、2009年度の介護報酬改定率は+3.0%。こちらは最大の引き上げです。

では、何が1号保険料の伸びを左右しているのでしょうか。今回の+2.5%という伸びについて、本ニュースでは2つのポイントが示されています。1つは「介護予防の取り組みの影響(これにより、介護給付の伸びの推計が抑えられた可能性)」、もう1つは「新型コロナの感染拡大を考慮した市町村判断(準備基金の取り崩しが増えたという可能性)」です。

準備基金の保有額の状況を見てみると…

ここでは、後者の「準備基金の取り崩しの可能性」にスポットを当ててみましょう。準備基金とは何かについては、上記で述べたとおりです。自治体ごとの条例規定にもよりますが、市町村判断で「保険料が急増する」ことを防ぐために取り崩されることもあります。

この準備基金ですが、厚労省の介護保険事業状況報告の最新年報によれば、2018年度末の残高(保有額)は6,947億円と最大規模にのぼります。では、過去の状況はどうだったのかというと注目すべき推移が見られます。

先の「報酬アップ大、保険料アップ小」だった2009年度末は残高が4,426億円でした。ところが、それから第4期末までの間に3,962億円(2010年度末)→2,848億円(2011年度末)と急減しています。あくまで残高のある保険者での範囲内ですが、保険料を抑えた分、取り崩しが進んだ可能性があるわけです。

問題は新型コロナ禍を経た「第9期」にあり

ちなみに、2009年といえばリーマンショックの影響で景気後退が鮮明となった時期です。先の介護報酬の大幅アップも、そうした景気対策の一環でした。いずれにしても、世帯収入などが危機的状況にある中で保険料アップが抑える必要も高まっていたわけです。

そして、2021年はその前年からの新型コロナの感染拡大により、多くの世帯で家計状況が厳しくなっています。となれば、約7,000億円にのぼる準備基金を取り崩す動きが強まることは、容易に想像できます。

問題なのはその後です。2024年度(第9期)に社会状況がどうなっているかにもよりますが、準備基金をこれ以上取り崩せないとなった場合、「保険料を大幅に引き上げるか、もしくは介護報酬を引き下げるか」という流れは今以上に強まる可能性は高いでしょう。

準備基金には自治体による格差もあることから、サービス資源の拡充や保険料について地域差が拡大することも考えられます。これから先、足元の地域状況への注視が必要です。

・参考:介護保険事業状況報告:結果の概要(厚生労働省)

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。