深く、広い対医療連携が必須の時代

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今回の介護報酬・基準改定では、加算要件への対応にかかわらず、運営基準でも「医療職のかかわり」が大きくなっています。介護現場への日常的な医療職の関与が大きくなるとすれば、2022年度の診療報酬改定の行方にも、今まで以上の注意を払うことが必要です。

感染対策委員会への参画が望まれるメンバー

今改定で、全サービスに対して「感染症対策」にかかる取り組みが義務化されました(3年の経過措置あり)。その取り組みの一つに、感染症予防・まん延防止のための委員会の開催(おおむね半年に1回)があります。施設系サービスでは従来から定められていますが、居宅系サービスなどでは初めての義務化です。

そして、その委員会の参加メンバーについて、以下のような留意事項が示されています。それは、「感染対策の知識を有する者を含む幅広い職種」による構成が望ましいとする内容です。さらに、「感染対策の知識を有する者」について「外部の者を含め積極的に参画を得ること」も望ましいとしています。

あくまで「望ましい」であり、強制ではありません。しかし、たとえば新型コロナ感染症のように地域での感染が大きく拡大した場合、日頃からの感染対策について、自治体によっては「外部の専門知識を有する者」の関与を強く指導するケースも想定されます。

地域の中核病院との協力関係が必要に?

では、この場合の「外部の専門知識を有する者」とは、どんな人を指すのでしょうか。たとえば、地域の中核病院では、院内感染のみならず(外来患者等も視野に)地域の感染拡大防止に向けた「感染症対策部門」などを設けているケースがあります。自治体の指導により、そうした部門の専門スタッフに参画をお願いすることも想定されるでしょう。

施設系サービスでは、やはり従来から「施設外の感染管理等の専門家」の積極的な登用が望ましいとされてきました。施設の場合は協力病院などもあるので、比較的「外部の専門家」の関与を依頼しやすいでしょう。

一方、大法人等のバックがない居宅系サービスでは、こうした外部連携はどうしても手探りになりがちです。「強制」ではないので、「そこまでする必要はない」と思われるかもしれません。しかし、これからのサービス運営においては、「地域の医療資源との連携ノウハウ」を意識的に築く必要が高まっています。

その背景として、新型コロナ感染症の影響がこれから先も(たとえば数年単位で)続くという可能性ももちろん上げられます。ただし、それだけではありません。注意したいのは、今改定で「対医療連携のあり方」が大きく変わっていく兆しがみられることです。

「加算廃止→基準上で義務化」の流れの中で

これは施設系サービスの話ですが、今改定で、自立支援・重度化防止にかかる2つの加算が「廃止」となりました。口腔衛生管理体制加算と栄養マネジメント加算です。

前者は「歯科医師、歯科医師による介護職への定期的な技術的助言・指導を受けること」、後者は「施設に管理栄養士を配置して、入所者ごとの栄養ケアマネジメントを行なうこと」が要件となっていました。そして、両加算が廃止されたことにより、上記の要件は運営基準としてすべての施設で義務化されました(やはり、いずれも3年の経過措置あり)。

となれば、今まで加算をとっていなかった施設でも、前者であれば「外部の歯科医師、歯科衛生士」に定期的な技術的指導・助言をお願いしなければなりません。後者は「外部の管理栄養士との連携でもOK」となりましたが、この場合でも地域の栄養ケア・ステーションなどに所属する管理栄養士との連携が必要です。そのうえで、入所者ごとの栄養ケア計画を作成することが必須となります。 このような「加算の廃止→運営基準上の義務化」という流れは、報酬体系の簡素化と自立支援介護の強化というテーマの中、将来的に居宅系サービスでも増えることが考えられます。そうなれば、外部の医療系職種との連携実務は、すべての事業所において必須のノウハウとなるのは間違いないでしょう。 

介護の行方を左右。2022年度診療報酬改定

当面、視野に入れるべきは、2022年度の診療報酬改定です。これまでも、対介護連携の実務評価としては診療情報提供料などがあります。しかし、介護側の医療系職種との(必須となる)連携範囲が拡大していくとなれば、医療側の報酬上のインセンティブを、さらに拡充させることが欠かせないでしょう。

ちなみに、2022年度の診療報酬改定では、新型コロナ対策にかかるしくみが大きくなるのは間違いありません。そうしたケースでも、「地域の感染拡大防止」という観点から「対介護現場」への支援・指導などを要件とする改定も増えることが考えられます。

診療報酬上のしくみは、時間差で介護報酬に影響を及ぼす──こうした流れは、過去の改定でもよく見られることです。つまり、2022年度の診療報酬改定は、その次の介護報酬・基準改定の行方を左右するわけです。そうした視点で、間もなく本格化する診療報酬改定の議論をチェックしておきたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。