コロナワクチンと介護保険の関係

f:id:testcaremane:20210715162811j:plain


新型コロナワクチン接種に関連して、訪問介護および通所系サービスの「臨時的な取り扱い」にかかる厚労省通知が出されました。利用者のワクチン接種にかかるサポートが想定されていますが、実は「ケアマネの役割」が大きくなるという状況が浮かんできます。

ワクチン接種時の訪問介護の特例を整理

訪問介護については本ニュースで取り上げていますが、改めてポイントを整理します。

前提となるのは、「医療機関以外の接種会場(体育館や福祉・保健センターなどを想定)」での接種についてです。このケースで、(1)ホームヘルパー等が自ら運転する車両を活用する場合→通院等乗降介助+前後のケアにかかる身体介護、(2)公共交通機関を利用する場合→身体介護の算定が可能となります。

ご存じの通り、(1)(2)のルールに関しては、「医療機関への行き来」に適用されてきたものです。これを、ワクチン接種にともなう「医療機関以外の場所への行き来」にも適用可能とするというのが通知の趣旨となります。

逆に言えば、「医療機関でワクチン接種を行なう」といった場合は、従来通りのルールが適用されることになります。要するに、今通知は「臨時的取扱い」のケースを示してはいるものの、利用者のワクチン接種に際して「(ケアマネを含めた)居宅サービスの役割」を示したものと考えていいでしょう。

通所系では「保険外サービス」となることも

一方、通所系サービスですが、今通知の内容を整理すると以下のようになります。

  • 事業所内で接種を実施する場合I…その日に利用者の通所サービスが予定されている

(1)基本→ケアプランで位置づけられたサービス提供時間内で「接種」を実施(介護報酬も、その提供時間による算定となる)。

(2)接種にかかる経費が国庫補助による委託費として支払われている場合→接種については「保険外サービス」として取り扱う。(例.通常サービス→「接種(保険外サービス)」→通常サービスとなる場合、前後のサービス時間を合算して1回のサービス費として算定)

  • 事業所内で接種を実施する場合II…その日に利用者の通所サービスが予定されていない

(1)基本→ケアプラン上であらかじめ「予防接種」が目的であることを位置づければ、所要の提供時間の介護報酬が算定できる。

(2)の経費が国庫補助で支払われているケース→接種は「保険外サービス」として適用する。このケースでは、ケアプランにおける「保険外サービス(接種)にかかる記載」は不要。

利用者への同意確認は誰が行なうのか?

通所系サービスでの「接種」というのは、たとえば特養ホームへの巡回接種が組まれた場合に、併設している通所介護事業所でも同時に実施するといったケースが想定されます。いずれにしても、ワクチン接種は任意ですから、利用者によって「接種を受ける人・受けない人」が出てくることになります。

ここで問われるのが、利用者の接種にかかる意思確認です。厚労省が自治体に示した資料によれば、施設入所者については施設側が本人への説明と意思確認を行なうとしています。本人の意思確認が難しい場合は、家族や嘱託医等の協力を得ながら、「同意の確認ができた場合は接種可能」となります。

では、居宅の利用者の場合はどうなるのでしょうか。注意したいのは、通所サービスにおけるII-(1)のケースです。ここでは「ワクチン接種のための利用をケアプランで位置づける」ことが、報酬算定の要件となっています。この流れで言えば、本人への意思確認と同意はケアマネが行なうことになります。

本人の意思確認が難しい場合は家族の協力を得てとなるでしょう。また、本人が一人暮らしかつ認知症があるといったケースでは、意思決定支援ガイドラインに沿ってチームでの意思確認が必要です。包括や行政がどこまでかかわるかによりますが、ケアマネの役割も大きくなることは間違いありません。

国は「公益性の高さ」を主張しているが…

ここで浮かぶのが、「なぜI-(1)、II-(1)のように、ワクチン接種を介護保険の中に組み込もうとするのか」という疑問でしょう。

先の通知では「公益性の高さ」という理由を付しています。それならば、「委託費を使ってすべて保険外で」とした方がすっきりします。委託費の有無で介護保険の内と外を分けるのは、しくみの煩雑化が公益性の「壁」となるだけでなく、介護保険の公平性という点でも問題が生じるのではないでしょうか。

見逃せないのは、介護保険を「ひも付け」したことにより、なし崩し的にケアマネの業務負担が膨らんでいく可能性です。

確かに「ワクチン接種」も、利用者の自立や療養の支援という流れの上に位置づけられるものではあります。しかし、国が公益性を強調するなら、そのために現場がしわ寄せを受けないような独立したしくみ作りが必要でしょう。既存の制度の枠組みを使って、「いつの間にか現場業務が支障をきたす」というやり方は「公益性」と矛盾しかねません。

新型コロナのワクチン接種については、いったん介護保険から切り離したうえで、現場負担を保障する費用を「もっと明確に線引きする」ことが必要ではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。