ケアマネと科学的介護の関係は?

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2021年度改定では、科学的介護の推進が大きなテーマとなりました。関連するさまざまな報酬や基準の中で、ケアマネ実務はどのようにかかわってくるのでしょうか。これからのケアマネジメント改革を見すえつつ、ケアマネ実務と科学的介護の関係を整理します。

解釈基準等で定められたLIFE連携とは?

科学的介護の推進については、加算による対応のほか、全サービスを対象に基準上での努力義務が定められました。趣旨としては、「サービス提供にあたって介護保険等関連情報を活用しつつ、PDCAサイクルを構築・推進し、提供するサービスの質の向上に努めなければならない」というものです。

この場合の介護保険等関連情報というのは、主にLIFEを示しているといえます。具体的には、PDCAサイクルにおける「C」、つまり「行なったこと(D)の評価」に際してLIFEデータを活用し、「計画(P)を見直す(A)」というサイクルの構築を求めているわけです。

一方、解釈基準では「望ましい(推奨)」とする内容がプラスされています。それは、明確に「LIFE」というDBを取り上げつつ、そこに情報提供を行ない、フィードバック情報を活用するというものです。

ケアマネジメント情報のLIFE提供の行方

居宅介護支援については、「努力義務」の内容は他サービスと同じです。つまり、ケアマネジメントに際して、LIFE等の情報を活用しつつ「モニタリングやケアプランの見直し」につなげることに努めるとうわけです。

一方で、「LIFEに情報提供してフィードバックを受ける」という「推奨事項」は、居宅介護支援では示されていません。ケアマネが収集するアセスメント情報やケアプラン上の情報を「LIFEに反映する」ことは、現時点では難しいということもあるでしょう。

もちろん、入力の手間などを考えた場合、既存のケアプラン作成ソフトへの入力がそのまま「LIFEへの情報提供につながる」ようなシステム整備も「これから」といえます。では、将来的にケアマネジメント情報をLIFE情報に連結させる可能性はあるのでしょうか。

進行中の「データ連携システム構築」に注意

注意したいのは、厚労省の予算措置により「ケアプランデータ連携システム構築事業」がスタートしていることです。ご存じのとおり、これは、ケアプランの内容を居宅サービス事業者等とそれぞれの介護ソフト上でデータ連携させるというしくみです。

すでに情報連携のための標準仕様は厚労省のHP上で公開されていて、試験運用や動作検証が間もなく始まる予定です。また、介護分野の文書の負担軽減の工程表では、上記のデータ連携システムの利活用を2022年度に推進することが目指されています。

ここで考えたいのは、ケアマネと連携する居宅系サービス(通所系など)で、今年4月からLIFE連携による科学介護にかかる加算を取得するケースも増えてくることです。それ以外の事業所でも、「3年後にはLIFE連携を要件とした加算がもっと増える」ことなどを見込み、現行では「推奨」であるLIFEへの情報提供に乗り出すためのシステム構築を図るケースは増えてくるでしょう。

となれば、先のデータ連携システムの先に、「ケアプランデータとLIFEとの連結を図る」という道筋が見えてくることになります。

ケアマネにとっては「嵐の前の静けさ」か?

ケアマネジメントにおけるLIFE連携の行方で、さらに頭に入れたいことがあります。それは、「ケアマネジメント手法の標準化」と「AIによるケアプラン作成支援」を、どこかのタイミングで制度化するという可能性です。

前者については、利用者ニーズによって想定される支援内容の分析が進んでいます。現状では、医療ニーズや認知症対応のニーズに限定されていますが、さらなる分析を進めるために「LIFEへのデータ提供」に向けたインセンティブが図られる可能性もあります。

後者については、昨年7月の「経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる「骨太の方針」)で、以下のような目標が掲げられました。「利用者のアセスメント情報から、ケアマネがどのようにケアプランに落とし込んでいるかといった思考フローを、AIのアルゴリズム(計算)によって可視化する」というものです。

具体的には、今年度中に「ケアマネの思考フローの可視化(ケアマネがどのように思考しているかをフローチャート化すること)」が進められる予定です。そのうえで、2022年度には「AIモデルによる実証評価」が目指されています。このスケジュールを踏まえれば、当然、2024年度の報酬・基準改定で何らかの手だてがほどこされることになるでしょう。

今回、居宅介護支援で「LIFEへの情報提供」が推奨化されなかったのは、こうした大きな改革がすでに進行中という背景も影響していると考えられます。つまり、「やるとなったら本腰を入れて」という準備が必要だということです。ケアマネにとっては「嵐の前の静けさ」なのかもしれません。これからの検討会等の動きに注意する必要があります。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。